フォレストノベル

□天使のいた屋上
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 ピロチカルン、という短くもよく響く電子音が背後から聞こえたので、ぼくは慌てて振り返った。
 雨上がりの夕方。どんよりと暗い雲海。見渡す限りのどこよりも空に近い場所。見下ろす天井に、人影。
 携帯電話を構えている。
「なにし‥‥なにしてるんですか!」
 いつもなら見も知らぬ人相手にこんなこと言う度胸なんかないのに、そのときはやっぱり、興奮していたんだと思う。羞恥心なんて消えていたんだと思う。そんなことよりもっと、いら立っていたし情けなかったしミジメだったし。
 これ以上の恥なんて、もうないと思っていたし――だから師走を半分も過ぎながらワイシャツ一枚でいたというのに、寒いとは感じなかったんだ。
 相手は答えなかった。なおも響く、電子音。人を小バカにしたような、明るくて軽快なメロディ。
 バカにしやがって。
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