フォレストノベル
□みどりと黒いシロ
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水飲み場の蛇口は、すっかり古びて締まりも悪い。いつも蛇口の先から水滴がしたたり落ちて、下のコンクリートに小さな水溜まりを作る。これがワタシの水飲み場だ。
ヌルイ水を舌で掬い上げ、喉の奥へ流し込む。ほんの少し乾きは癒えても、空腹は治まらなかった。
『…腹へったなぁ』
ワタシは辺りを見渡した。ブランコ…滑り台…ジャングルジム…砂場…人どころか、他の猫の気配すらなかった。さすがにこんな真夏日に公園に出てくる程、人間はお馬鹿じゃないってことだ。
ワタシはトボトボとベンチの下へ戻ると、再び日陰に寝転んだ。こんな日は下手に動き回るよりも、大人しくしていた方がいい。ワタシは眼を閉じて、再び夢の世界へ身を埋めた。
『お姉ちゃん…お腹空いたよぅ』
ワタシはハッと眼を醒ました。
『…夢、か』
ワタシは大きく息を吐くと、ブルブルと全身を震わせた。
「お姉ちゃん、お腹すいたよ〜!」
今度は夢じゃない。確かに背後から声がした。ワタシはゆっくりと振り返った。
「もう!?みどりはさっき昼ごはん食べたばっかじゃん!」
「そうだけど〜」
夏の陽炎に揺れながら、二つの声が交錯していた。ワタシは眼を凝らして二人を見た。