フォレストノベル
□みどりと黒いシロ
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あの夏、ワタシは陽炎にも似た少女と出会った。
初めて感じた人の優しさ、温もり、そして心の痛み。
あの夏の日を、ワタシは決して忘れない。
もしもお馬鹿な人間が「猫も夢を見るのかい?」と尋ねた時、賢いワタシは『ええ見ますとも』と答える。
人が夢を見るのと同じように、ワタシだって夢を見る。すぐに忘れてしまう夢もあれば、絶対に忘れない夢だってある。
季節は夏、疑いようのない…完璧なまでの夏だった。
『暑い〜…』
ジリジリと照りつける日差しは、ワタシの夢の中にまで太陽を潜り込ませてきたくらいだ。いくらベンチ下の日陰で眠っていたとしても、今日の暑さは防ぎきれそうにもない。 ノソノソとベンチから這い出たワタシは、ギラギラとワタシ睨む太陽を睨み返した。次の瞬間、光が容赦なくワタシの瞳を貫いた。近所の野良猫との睨み合いには自信がある方だったが、さすがに太陽には勝てなかった。ワタシは潔く負けを認め、水飲み場へ向かった。
公園を野良生活の根城に選んだのは正解だった。水道があるから水には困らない。トンネル遊具があるから雨には困らない。砂場があるからトイレには困らない。ただ、この暑さだけは防ぎようがなかった。