フォレストノベル
□Sweet Sweet Bathroom
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ある晩、いつものように帰宅直後に風呂に入ろうとして浴室の引き戸を開けると、
そこには女がひとり立っていた。
青司は絶句した。
女はにっこりと微笑んだ。
次の瞬間、青司は自分が素っ裸だったことに気づき、黙って戸を閉めた。
『あの…っ』
掏摸ガラスの引き戸越しに女が言った。
『間違いじゃありませんよ。ここはあなたのおうちです』
今まさに自分が考えていたことを女が口にしたので青司は再び面食らう。
一瞬部屋を間違えたかと思ったのだ。
それでも青司が黙っていると、女は言った。
『あの…遠慮せずにお入りください…と言ってももちろん入りずらいと思いますが…』
そこで一拍おいてから女は続けた。
『できれば席を外したいと思うのですが、私はここから動けないので…』
そこまで聞くと、青司は腰にタオルを巻いて再び引き戸に手を掛けた。
掏摸ガラス越しに立っている女の細いシルエットが見える。
意を決した青司が勢い良く引き戸を引き開けると、さっきとは違い、女は申し訳なさそうな顔をして立っていた。
昭和中期に建てられたという老朽一戸建てのこの借家は、風呂の広さだけが大家の自慢だった。