とある夏の打ち上げ花火

□ホラー映画
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 ジリジリと僕の背中に向けて太陽の光を当てている気がしてならない。耳から聞こえて来るのはミンミンと蝉の鳴き声が夏の暑さを強調するかのように延々と聞こえ続けている。

ピンポーン

どこにでもあるようなマンションの部屋のインターホンのボタンを押すと同時にチャイムが流れる。

「はい。どちら様で?」
そしてインターホンのマイクの所から何度も聞いたことのある声が聞こえて来る。

その声を聞いた瞬間夏の暑さに負けて少し猫背になりかけていた背筋がピンッと伸びたのが自分でも分かった。

「あの・・・P-Pですけど・・・」

何度もこの家には来たことがあるはずなのにいつもここで緊張してしまう。一番最後に来たのは・・・まだ、2ヶ月も経っていないだろうか?そのはずなのに、喋る時には緊張してしまって仕方がない。

「おぉ、待ってろすぐ行くから」

そう言ってプチッっとインターホンのマイクから何か切れる音が聞こえた。扉の向こうからは微かにだが足音が聞こえて来る。こちらに向かってきているということだ。足音は確実に大きくなって来て僕の心を高鳴らせる。


ガチャン
扉の開く音が聞こえた。

「よっ、P-P」

開いた扉から顔を出したのはつわはす君。

「暑かっただろ?とりあえず中には入れ」

そう言って扉を全開に開き僕を向かい入れてくれる。

「おっ・・・お邪魔します・・・」

何故かぎこちない喋り方になってしまう。いつものテンションのつわはす君と今の僕のテンションには大きな差ができている気がする…

そのままつわはす君の半歩後ろを歩いてリビングへと向かう。
リビングの扉を開けるとクーラーが効いていてスーっと涼しい風が体を通り抜けていく気がした。
そのおかげで今までの暑かった場所にいた体を癒してくれている感覚になった。


「今日も暑かっただろ?」
「うん、もうビックリするぐらい。もうこれ以上熱くなられたら困るよ」

リビングの大きなテレビの前にある少し大きめのソファに座り何気ない話を進めていく。こんな何気のない時間が本当に幸せだった。

実は、僕らはまぁ…付き合っている。付き合いだしたのは半年前ぐらいだろうか?世間的にはよくないのだろうけど、お互い好きになってしまったのは仕方がないということで付き合っているのだ。
元々つわはす君とは仲がよかってよくゲームで遊んでいたのだが晴れて付き合うというのはなんだか照れくさい。

それに、デートと言っても外では普通に『男友達』という感じでいなければ周りの目が痛い。なのでほとんどデートは家だけ。だけど、つわはす君といれる時間は本当に嬉しいのだ。


「…ということで、今日は暑い夏も一気に寒くなることをしようと思ってな」


そう言ってつわはす君は自分のカバンを漁り始める。何か買ってきたのだろうか?ボードゲームとかその辺の類なのかな?いや、だけどそんなの寒くなるはずはない…むしろゲームに白熱してよけい暑くなってしまうのが目に見えている
というかどうやって寒くさせるつもりなのだろうか?


「これだ!」

そう言って取り出したものに僕の思考は一時停止をしてしまう。なぜならつわはす君が取り出したものは『クロユリ団地』と書かれたホラー映画なのだから


「えっ・・・あの・・・つわはす君?」
「なんだP- P。あっもしかしてお前、これ見たことあるのか?」
「いやないけど・・・」
「だったらいいじゃねーかよ」


そう言って悪意ない笑顔で笑ってくるがこれは見逃すわけにはいかない。
何故かって?見逃せるわけないじゃないか!
僕は根っからホラーが大っ嫌いなんだ。これは絶対につわはす君も知っていることだ。それなのに…つわはす君はなんでこんなものを借りてきたんだ…借りてくるならインディペンデイスデイとかがよかったよ…

「んじゃ、再生するぞ〜」
「ちょっ…ちょっと待って!」
「んだよP- P…」
「僕…ホラーは無理なんだけど……つわはす君知ってるよね?」
「えっ?うーん…忘れたわ」


また普通にニッコリと笑ってくるがもう僕は何も笑えない。たとえ、今ここで笑い出してもそれは面白いとかそう言う楽観的なことで笑うのではなくあまりの恐怖で狂いだし笑っているということだろう。

「んじゃ改めて…」
「ちょっ…ホント止めて!」


そんな僕の言葉も虚しくつわはす君の耳には届かずつわはす君はDVD の再生ボタンを押す。
もう…嫌だ…




 「いや〜以外に怖かったなP- P…ってP- P!?」


映画は最長でも2時間だと言われているが僕にはこの作品の長さは8時間ぐらい映し出されていたという感覚がある。

テレビの画面からは幽霊やグロテスクなシーン。テレビのスピーカーからは男女の悲鳴や幽霊のうめき声。どれを取っても『本当に怖かった』という言葉以外出てこない。
『でも、最後まで見たじゃないか』
と思う人もいるかもしれないが見ているわけがない。

もう開始3分でソファの上に乗っていたクッションを抱きかかえて耳を両手で抑えて横を向いていたのだから。
だが、やはり声は手を塞いでても聞こえてきたし少し気を抜くとテレビの画面も見えてしまった。それになにより怖かったのはつわはす君の叫びだ。
叫びと言っても「うぉ?!」や「うわ!!」などの『絶叫』と呼べるほどのものではなかったがその時の僕は本気でつわはす君の叫びが怖かったのだ。
叫び自体も怖かったが一番怖かったのは『今、横の画面から幽霊が出てきている』と思ったことだ。

何もない所で叫ぶわけがない。ということは、今画面の中に幽霊が出てきているということになる。そう考えただけでも恐ろしすぎた。

そんな時間が何時間にも及びもう精神力も限界を超えていた。
僕は力尽きるように後ろへと倒れた。

「おっ…おいP- P!しっかりしろ!」

つわはす君の声が聞こえるが。頭に入ってこない。もう、疲れた・・・



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