『バラの館』

□白銀事花
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青木晴斗(あおき・はると)は庭に出て植木屋の仕事を見ていた。10月になりだいぶ涼しくなってきたとはいえ、昼間は残暑が厳しい。立っていると全身からジットリと汗が出てくる。子供の診察を心配する親のように不安げな表情である。

「この木は駄目だね。」
田中造園と白抜きされた濃紺の法被をはおり頭に白いタオルでねじり鉢巻をした初老の男が梯子の上から声をかける。
庭には数種類の木が植えてあるのだが、1本だけほとんどの葉が落ちて弱々しく枝を伸ばす物があった。銀木犀。隣にある薄黄木犀や金木犀は蕾を付けて満開にはまだ早いが甘い香りを漂わせている。それなのに、花は咲きだしたものの元気がなかった。
「カイガラムシやハダニは退治したけどここまで酷いと治るみこみは少ないね。」
1ヶ月後にまた見に来ると言うと植木屋は帰っていった。

晴斗は孤児だった。3歳の時に施設からこの家にひきとられた。養父母は優しく晴斗も本当の親子だと思っていた。だが、親戚たちは違ったようだ。
 

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