アイデア置き場

□『呪歌』続き(予定)
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和田海茉莉(わたみ・まつり)
念尉晴菜(ねんじょう・はるな)
井野実(いの・みのる)


 思えば、その頃から変な夢を見るようになった気がする。

 ワタシ、和田海茉莉は学校の近くの川原で黒地に白い線で六角形が描かれたカードを握りしめ泣いていた。そして、皮膚が爛れて病院に搬送されたあの日に出会った『呪歌の鬼』と『呪歌の番人』の言った事を思い出していた。

 あの日、病室から飛び降りようとして暴れたワタシはベットに拘束され精神安定剤で無理矢理眠らされた。夢うつつの中で現れた長身で端整な顔をした白衣の男が『呪歌の番人』だった。


「お前がこのまま自殺すれば、死を撒き散らす悪霊になる。復讐するのは止めないが他人を巻き込むな」
「あなたに何がわかるの!医者から見放されたのよ!!綺麗な肌の人間は皆、死ねばいいのよ。呪いながら死んでやるわ!」
「我は『呪歌の番人』。お前をそんな姿にした者が誰か教えると言ったらどうする?」
 朦朧とした意識の中で無様にわめくワタシとは逆に男は冷静に返した。
「知りたければ、このカードから一枚引け。カードが真実を告げる」
 目の前に差し出されたカードの束はトランプのように見えたが一面は真っ白でもう片面は真っ黒だった。ワタシは不気味に感じはしたが、意を決して拘束具を付けられてわずかしか動かない手で真ん中にある一枚を引いた。手に取ったとたん黒地の面に白い六角の線が現れた。
「『かごめ唄』か。我は『呪歌の番人』。そいつら、『呪歌の鬼』を管理している。」
「『呪歌の鬼』は過去と未来を伝えることができるわ。そして、憎い者を殺すことができる。でも、実行するかを決めるのはあなたよ」
 上から声がして頭をそちらに向けると、綺麗な花が散りばめられた赤い振袖を着たおかっぱ頭で青白い顔の少女がベット柵?からのりだして私を覗きこんでいた。小指くらいの角が両方のこめかみの辺りに一本ずつ生えている。彼女の無表情な赤い瞳を見つめると天井がぐるぐる回りだして、意識が夢の中に沈んでいった。

 嫌な夢をみた。晴菜がワタシのロッカーに彼岸花の汁を塗っていた。あぁ、だからあの時手が爛れていたのかと納得した。頑張って登校したらクラスのみんなに化け物あつかいされた。一番最初に気持ち悪いと言ったのは学級委員の井野実(いの・みのる)の声だった。彼がこんな酷い事を言う人間とは思わなかった。副委員長としていろいろフォローしていたのに。絶対許さない。
 完全に意識が沈む前に『鬼』の声が聞こえた。
「篭の鬼と語部を決めたらカードを破りなさい。あなたの命と引き換えに呪いが発動するから………」


 ワタシは泣くのをやめて手にあるカードを見つめた。彼らに会った翌朝、目覚めたら自分が握っていた物。それに、夢が信じられなくて退院後に学校に行ったら、まったく同じことが起きた。それらが彼らは実在したとつげていた。
 それにしても、今までの自分の努力はなんだったのだろう。他人に嫌われたくなかった。争い事に巻き込まれる事なく穏やかに過ごしたかった。人の嫌がる事はせず、困っている人を助け、部活も勉強も努力した。それなのに、顔が爛れただけで今まで普通に接していた人達に疎ましがられるのは理不尽ではないか。ワタシのやったことはすべて無意味だったのか。このやるせない思いをどうしてくれよう。ワタシの命と引き換えにクラス全員を呪う!特にワタシの顔を奪った晴菜と皆の前で辱しめた実には重い罰を下してやる!!

 ワタシはカードを縦に真っ二つに破り捨てた。
 そのとたん、辺りが真っ暗になり『呪歌の番人』の声が響いた。
「その願い、叶えよう」






白衣を着た精神科医として現れた。


お姉ちゃんもカグメなの?」
「ここにいるからカグメだろ?」
「カグメ!カグメ!!」

回るのをやめた子供達が口々に私をカグメと呼ぶ。男の子の声、女の子の声。皆、楽しそうだ。何かを期待している子供達の声が狭い部屋に不気味に響いた。薄暗いせいで顔や足元が見えないので子供達が何人いるのか分からない。声は近くから聞こえるのに私を囲む影は遠くに見えた。それに、彼らの背が私と同じくらいにみえるのが不思議だ。背は低い方だけど高校生の私と同じくらいの高さにみえるのは狭い部屋や蝋燭の灯りのせいなのか?彼らの足元が見えないのも蝋燭の灯りのせい?もしかしたら彼らは人間の子供じゃないのかも?足がないナニカかも?異様な空間と状況に怖い考えばかりが浮かんできて身動きできないでいた。
「怯える事はない。コイツらはお前と同類だ」

円の外側から男の人の声がした。 声がした方に目をこらすと、暗い部屋の一部から光が漏れている。夜明けなのかもしれない。
男の人の顔は逆光でよく見えないが、細身で背が高い。声は穏やかで、聞いていると不思議に落ち着くことができた。
でも頭の方を見た時思わずヒッとひきっった悲鳴をあげてしまう。彼の額から二本の角が生えていたからだ。 “鬼”という言葉が頭に浮かぶ。

朝日が少しずつ部屋を照らしていくと私を囲んでいる子供達の顔が見えてきた。皆、鬼だった。男の子も女の子も。本数はそれぞれ違うが額に角が生え、口もとからは2本の牙が覗く。皆、可愛らしく幼いのに角と牙のせいで異様で恐ろしかった。
私の表情が青ざめていたのか、さっきの男の人が私に近づき顔をのぞきこんできた。
「始めは皆、驚くんだ。でも、直に慣れる」
そう言って微笑んだ口もとから二本の牙が覗く。銀縁の眼鏡ごしに見える彼の双眼は金色に光っていた。

彼の言葉を聞くとなぜか落ち着く。そっと自分の額を撫でてみる。額の真ん中から一本の角が生えていた。次に口もとを手で触れて二本の牙があることを確認した。自分が鬼になっていることを確認すると安堵感に満たされた。

『コレデモウイジメラレナイ』

――――――――――――
「201号室の患者さん、落ち着きましたね。先生のカウンセリングはいつ見てもすごいです。コツがあるんですか?」
「鬼をもって鬼を制す、だよ」
長い髪をきちんとまとめた若い看護師が尊敬の眼差しで尋ねると、銀縁の眼鏡をかけた長身の医師は涼やかな笑顔で答える。彼の双眼が一瞬金色に光ったが、看護師はそれに気付けなかった。
――――――――――――しばらくすると、私の足元に『私だったモノ』が落ちていた。金色の眼の鬼がそれを部屋の外に持っていったけど気にはならなかった。今の私は子供に戻っている。皆と同じ“小鬼”だから人間の私はいらない。神様に選ばれてこの姿になれたのだ。ときどき牢屋から出ていく仲間がいるけど、私はまだ出れそうにない。

神宮女 神宮女

牢屋の中の 鬼は

何時々 出れる

夜明けの 番人

ヅルヅル 引っ張った

骸の正体なあに

――――――――――(終)
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