リクエスト

□幸せに…
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「別れよ?」


軽く、そう、告げられたーーー









何がいけなかったのだろう。
今まですごく仲が良くて、周りが羨むほどだったのに。
理由も無くそう告げられ、只々立ち尽くす。


「……俺のこと嫌いになった?」
「いや。嫌いにはなってねえよ」
「……なら、なんで…?」


ナツは何も言わず、ただ微笑んでいるだけだった。
困ったように。



「やっぱ男同士がダメなんじゃねえかな」
「俺は気にしない」
「俺も気にしねえけど、周りが気にするだろ」
「そんなんほっとけばいいじゃねえか。大事なのは俺とお前の気持ちだろ?」


お願いだから、俺から離れて行かないで。
いつの間にかナツを抱きしめ、震える声で呟いた。

ナツは小さくため息を吐くと子供をあやすように俺の頭を撫でた。

ぎゅうぎゅうと腕に力を入れれば、痛い痛いとナツから声が上がる。
でも、離したくない。
無視して力を入れれば、いい加減にしろ、と強めにチョップされる。
お前のが痛いよ。

仕方なく離せば、また困ったように微笑んだナツと目が合う。



「グレイ、俺と別れたくない?」
「当たり前だ」
「どうしても?」
「別れるとか、ありえねえ」
「でもやっぱりダメ。別れる」
「なんでだよ!」
「俺が、別れたいから」
「………っだよ…」



やっぱり、俺のこと嫌いなんじゃねえかよ…
嫌いになったんじゃねえかよ…
もう知らねえ。
もう、知らねえ!



「だからグレイ、これからは友達…」
「俺は!! お前の特別じゃなきゃ嫌なんだよ!!」
「グレイは特別な友達だ」
「なんだよ特別な友達って!! 特別な……恋人じゃなきゃ……嫌なんだよ……」


一線を越えてしまった仲なんだ。
今更普通の友達になんか戻れるわけねえ。

つう、と頬に一筋、涙が零れた。


「ごめんな、グレイ……」


そう言って、足早にナツは去って行った。
追うことは、しなかった。











次の日からのナツは、本当に前までの、恋人という関係になる前のナツだった。

喧嘩をふっかけてくるわ、悪戯してくるわ、昨日まで本当に俺たちは恋人同士だったのだろうか。
俺だけが、好きだったのだろうか。
ナツは俺のこと嫌いにはなってないと言ったが、好きだとは言ってない。
むしろ別れたいと言ったのだから、好きなはず、ないじゃないか。

また涙が出そうだ。

ナツの顔を見るのが辛い。
ナツは割り切っていたとしても、俺の中ではまだ割り切れない。

それから俺は、自然とナツを避けるようになった。

同じクラスではあるため、毎日顔は合わせることになるが、極力俺からは話しかけない。
顔も見ないようにしている。
同じ空間に居るだけで苦しくなるため、休み時間は教室に殆どいない。

そんなことを続けて、一ヶ月程。
最近は本当にナツと会話していない。


授業を終えるチャイムが鳴り、一気に皆の開放感のある空気ができた。
終わったばかりの授業のノートを鞄に詰め込む。


「ねえグレイ! 今日一緒に帰ろうよ!」
「ルーシィか。別にいいけどよ…」
「心配しなくたってナツはいないわよ?」
「……そうか」


図星、最近ナツとルーシィは仲良く一緒に帰ったりしているから、少し心配だった。
一ヶ月経った今でも、俺はまだ割り切れてねえんだ。

ていうかそもそもルーシィと一緒に帰ってる姿を見て嫉妬した。
元々仲の良かった二人だから付き合ってるのでは無いかと、ショックだった。


「グレイー帰ろーよー」
「ん、ああ。今行く」
「グレイ、ルーシィまた明日なー!」
「うん、また明日ー」
「…………」


ナツに挨拶もできない。
教室を出るときに見えた、ナツの顔は見なかったことにした。







「何でナツが別れたいって言ったか、分かる?」


門を出てすぐにルーシィに問われた。
そんなの、俺が嫌いになったからに決まってるじゃないか。

そう言えばルーシィにこれ程かという程呆れた顔をされてしまった。
意味が分からない。


「ナツはグレイのこと嫌いになってなんかないよ。むしろ、今でも大好き」
「じゃあ何で別れたいとか言ったんだよ?」
「ナツなりの思いやりよ。あんた、家族が欲しかったんじゃないの?」



家族……

幼い頃に両親を亡くした俺は、確かに家族に憧れた。暖かい、家族に。
でもそんなこと、ナツに一度も言ったことなど無いのだ。
なのに、どうして……



「ナツ、あんたと別れてからずっと言ってた。グレイが望む家族には俺はなれないから、だから別れたんだって」
「……………」
「幸せになって欲しかったから、別れたんだって」
「そんな、の……俺には、ナツがいなきゃ……幸せになんかなれねーよ!」


クルリと踵を返し、出たばかりの校舎へ再び足を踏み入れた。
後ろから、がんばれ、と聞こえた気がした。


「どちらか一方だけが幸せなんて、絶対ダメ…2人一緒に幸せにならなきゃ」






end


おまけ

「おはようナツ」
「んぁ、ルーシィ! おはような!」
「昨日、どうだった?」
「あー、えっと……また、付き合い始めた…かな」
「そっか! よかった……あ、えっと、ゴメンね。グレイにあのこと言っちゃって……なんか見てられなくなっちゃって…」
「ああ、全然いいぞ? むしろ感謝してる。あのままだったら俺ずっと言わなかっただろうからな」


そう言って和かに笑うナツ。
ここ一ヶ月のあの無理したような笑顔じゃなくなったことがすごく嬉しい。


無理してグレイの幸せを願ったナツ。
今度はナツが幸せになってね。





(で、さっきから後ろに引っ付いてるのは何?)
(んーグレイだな)
(一ヶ月分のナツ補給してんだ邪魔すんな)
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