ゆらゆらる。

□09
1ページ/1ページ





「…ええっ!?それでジャン、そのまま見送っちゃったの!?」

「……」



座学の休憩時間中、教室内で今朝のことをマルコに話したら盛大にため息をつかれた。

なんだ、なんか泣きたくなってくるな。



「ジャン…奥手奥手だとは思ってたけど、これはもう奥手を通りこしてヘタレだよ」

「ヘタ…!?なっ…!?」

「だってそうだろ?お前、告白どころか、話すこともまともにできてないじゃないか」

「……」



確か、に。

その通りだが。



「マルコ……お前本当にマルコか?」

「何言ってるの、当たり前だろ」

「……」



この強気なマルコは本当に俺の知ってるマルコかと疑ってしまう。

しかしマルコの言っていることは全て正論だった。



「それにしても意外だなぁ」

「何がだよ?」

「ミカサを好きだったジャンが、まさかキーリを好きになるなんて。でもやっぱり違うよね」

「だから何が、」

「ミカサの時はこんなに悩まなかったもんね」

「!」



ぐっ、と息を詰まらせた。

そう言えば、そうだ。
俺はずっとミカサを好きなんだと思っていた。
初めて恋をしたと。

だけど、俺はミカサに、キーリの時のようにドキドキしたり、もっと話したいと思ったことはなかった。

じゃあミカサに抱いていたのは、やはり恋心ではなく憧れ。



……つまりキーリに俺は、



「“初恋”を…した…?」



この呟きをマルコは聞いていて「やっと気づいたのか」と再びため息をつく。
だからお前は本当にマルコなのか?



「気づいたら話は早いよ」

「?何がだよ?」

「告白しないの?」

「はぁ!?何言って…」

「あ、いや、まずはキーリにジャンを“男”と思わせるのが先だけどね」



“告白”という言葉に赤面した俺をマルコは「ジャンって意外と初(うぶ)なんだね」と淡々とした様子で言った。


マルコは、俺がキーリに男として見られていないと言った。

それは俺も思う。手を掴んでも反応はなかったし、夜に会っても警戒をしない。

完全に俺はただの“恋の相談する人”にすぎない。



「だから、彼女にジャンが男なんだってことを意識させなきゃ」



「始まらないよ」とマルコは椅子から立ち上がる。



「意識させるっつったって…どうやって…」

「それは自分で考えなきゃ」

「………」

「あ、言っておくけど、変なこと考えるなよ?」

「ぶっ…なっ…何言ってんだお前!そんなことしねぇよ!」

「……一体何を考えたのさ…」



一気に赤くなった俺の顔を見て、呆れた様子でマルコは言った。

いや、別にやましいことは考えてねぇ。本当だ。嘘じゃねぇ。

要は俺が男なんだってキーリに思わせればいいんだろ?
焦る必要はねぇ、タイミングを見計らえばいい。



「僕は、ちょっとでも意識させることができたら十分だと思うけどな」

「……おう」

「まあ、頑張れよ。明日報告待ってるから」

「え?」



なんで明日?とマルコを見れば、不思議そうに首をかしげていた。



「今日の夜。会うんだろ?」



俺は赤かった顔を青くした。





ピンチはチャンス、チャンスはピンチ

(忘れてた…!)






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ