ゆらゆらる。

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『あ、ジャン君。具合はどう「わ、悪ぃ今教官に呼ばれてるから」…?そう、じゃあまた後で』



おかしい。変だ。
何がって、紛れもない俺自身が。
キーリに話しかけられると俺は俺じゃなくなる。
上手く話せねぇし、酷いときは目も合わさずさっきみたいに逃げちまう。

教官に呼ばれてるなんてもちろん嘘だ。

どういうことだよ、どうしちまったんだ俺は。



「…ねぇ、ジャン」

「……何だよ」



食堂で、一緒にいたマルコが呟いた。



「何かあったの?」

「あ?」

「だってキーリを避けてるから。それもあからさまに」

「………いや、」



んなこたぁ分かってんだよ。でも何かあったのかなんて思い出せないし、避ける理由も分からねぇ。

ああダメだ。自分で解決できそうにない。
俺はマルコに自分の思っていることを打ち明けた。





───…‥





「えっ…ジャン、君は周りを見る能力に長けているけど、自分のことになると随分盲目なんだね」

「今話したのが俺の思ってること全部だ。なぁマルコ、お前はどうしてだと思う?」

「ジャンがキーリを避ける理由?」

「ああ」



マルコは「うーん…」と唸った。マルコは博識で頭もいいのに、そんなマルコが唸るほどの問題なのか、これは。



「難しいね…」

「そんなに、か?」

「いや、うん。質問の答えは出ているよ。“どうしてジャンがキーリを避けてしまうのか”ってことはね」

「分かったのか!?」



なんだマルコ分かったのか。
これで解決だろ。



「問題はね、ジャン。君の方だよ」

「………は、」



意味が分からずマルコの方を見ると、困った顔をしていた。



「ど、どういう意味だマルコ」

「うーん…こればっかりは僕から言うことはできないよ。ジャンが自分で気づくべきだ」

「は?どういうことだよ」

「じゃあヒントを出すよ」



マルコは立ち上がった。時計を見れば消灯時間間際。

おい待て、質問の答えを教えろ。



「ジャンはキーリのこと考えちゃうんだろ?」

「ああ」

「キーリといるとドキドキしたり、そのせいで上手に話せない。違うかい?」

「その通りだよ」

「その気持ちってキーリ以外に感じる?」

「……いや、ねぇな」

「ほら、簡単だ」

「いやちょっと待て。全然伝わらなかったぞ。勿体ぶらないで教えろ」



するとマルコはあからさまにため息をついた。
くそ、分かんねぇ。



「じゃあ最後に」

「……」

「その気持ちって、何だと思う?相手をずっと考えてしまう気持ち。何かに似てるだろ?」



マルコは朗らかに笑い食堂を出て行った。



俺の気持ち…?
何かに似てるって、なんだ。
キーリのこと考えてて、ドキドキして、恥ずかしいような。



……あれ?



これってつまり──…





……恋、か?





「っ!!」



瞬間、俺の頭は爆発した。





もう止まらない、止まれない

(“憧れ”と“恋”の違いを知った)






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