ゆらゆらる。
□03
1ページ/1ページ
「よぉ」
開けっ放しの医務室のドアをノックし声をかければ、キーリは驚いた顔をしていた。
『ジャン君…なぜここに?』
「どっかのお人好しが皿の破片で指をザックリやってたからな」
『見てたのか。恥ずかしいな』
『はは、』と笑うキーリだが、例の傷からはまだ血が出ていた。脱脂綿で止血してんのにまだ血が出るってやばくないか、それ。
先生に診てもらった方が、と辺りを見回すが、それらしき姿はない。
『先生はいないみたいだよ』
「……役に立たねぇな」
『訓練時間外だからね、仕方ないさ』
「……痛いか、それ」
『ん?うん、まぁね。でもこれくらい大丈夫さ』
あ、こいつ馬鹿だ。
こんなに血が出てんのに大丈夫なわけがねぇんだ。多分深く切ってる。ちゃんと消毒しないと膿んで後悔するぜ、きっと。
依然血の止まらないキーリの指を見て、顔をしかめた。
「ちょっと貸せ」
『お?』
「少し痛いぞ」
『いや、いいって……痛っ、』
脱脂綿を半ば強引に奪ってキーリの指を圧迫する。
「こういうのはな、ちゃんと手当てしないと後悔すんのはお前だぞ」
『……』
なんだこれ。何してんだ俺。俺はこいつの母親か。
違う、断じて違う。
ただこいつがあまりにもお人好しで馬鹿だからだ。
つーかキーリ黙るなよ。気まずいだろ。
「……何とか言えコラ」
『“何とか”』
「ふざけてんのか?」
『いっだだだだっ!!ごめん、悪かった!悪かったよ!!だから指に力を込めないでくれ!』
指の痛みから必死に許しを乞うキーリに、指の力を緩めるとキーリはため息をついた。
そしてその後『あっ、』と声を上げる。
『血、止まったみたいだ』
「……そうらしいな」
脱脂綿を取ってみれば、キーリの指の血は滲む程度まで止まっていた。
消毒をして、絆創膏を巻き付ける。
『……手際がいいね』
「そうか?普通だろ、これくらい。……ほら、できた」
『……ありがとう』
キーリはふわりと笑った。
…面と向かって礼を言われるのはこんなに恥ずかしいものだったか。
照れを隠すために顔を背け、「うるせぇよ」と言っておいた。
案外俺もお人好しかもな。
『お礼にミカサのとっておき情報を教えてあげよう』
「……何だよ」
プライドがそうさせるのか、興味なさそうに、できるだけがっつかないように。顔を背けたまま問う。
『ミカサのスリーサイズだ』
俺は正面を向いた。
協力は忘れない
(でもそのネタはずるいぜ)
←→