ゆらゆらる。

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今日の訓練は一段とハードだった。
スパルタ教官に何度も対人格闘技の相手をやらされた。
ったく、なんで点数にもならねぇ訓練を教官自ら相手し出すのかねぇ…。

だが、俺は今ツイてる。今日のハードな訓練なんて苦じゃねぇくらいにな!

そう思いながら食堂で夕食のパンを頬張っていると、一緒にに食べていたマルコが隣でぐったりしていた。



「なんだマルコ。食わねぇのかよ?」

「食欲湧かないよ……今日の訓練キツかったし……」

「まぁな」

「そういうジャンは元気じゃないか。何かあったの?」



そういやこいつは変なとこで勘が鋭かったな。



「分かるか?」

「ジャンは分かりやすいからね」



マルコは「それで、何があったのさ」と俺に問い掛けた。
俺は待ってましたと言わんばかりに話すことにした。





──…‥





「ああ、キーリか」

「知ってんのか?」



マルコに今日の朝あった出来事を話すと、どうやらキーリを知っているようだった。

なんだ、何か有名なのか。
そう問えばマルコは「知ってるも何も、」とため息まじりに答える。



「彼女、一部の男子に人気だから」



息が詰まった。つーか驚いた。何だそれ。全く知らなかったぞ。
そうか、あいつ結構人気だったのか。

そういや朝見たときは気づかなかったが…可愛かったな、あいつ。



「彼女優しいし、周りも良く見ることができるから。男女共に一部からすごく人気だよ。人見知りらしいから知り合いは少ないみたいだけど」

「お前話したことあんのかよ?」

「うん、前に一度ね。授業で習ったとこが分からなくて一人で勉強してたら、彼女から声をかけてくれたんだ」

「人見知りなのにか?」

「困ってる人を見ると放っておけないんだってさ。ほら、また助けてる」



マルコが指差す方を見ると、キーリがいた。近くにいるのは…ベルトルトか。

ベルトルトと他の訓練兵がぶつかって落ちた食器をキーリは拾っていた。
恐らくベルトルトとキーリは初対面だろうな。話してるとこ見たことねぇし、ベルトルトも内向的な性格だから。


キーリはお節介というか、お人好しというか。
キーリが今日俺に話しかけて来た理由もそれだったんだろう。

……なんだ?
なんか今一瞬モヤッとしたような。まあ、気のせいか。



「あっ」

「あ?どうしたマルコ」

「キーリが落ちた皿の破片で指を切ったみたいだ」

「ああ?」



キーリのいる方向を見れば、キーリの人差し指から血が滴っていた。周りは慌てていたが、キーリは『大丈夫』と笑って食堂から出て行った。

医務室に行ったんだろうな。素手で皿の破片なんか拾うからだ。
お人好しが頑張るから、ああなる。



「……ジャン?どこに行くの?」



急に立ち上がった俺に、マルコが訊ねた。



「………便所だ馬鹿」



そう言えば、マルコは笑って「就寝時間までには帰って来なよ」と言った。

うるせぇ、分かってるよ。
そういう意味を込めてマルコを睨んだが、奴にはお見通しのようだった。



俺は食堂を出て、便所とは反対の医務室へ足を進めた。





お人好しの災難

(ほんと、変な女)






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