ゆらゆらる。

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『おや、君はもしや噂のジャン・キルシュタイン君?』

「あ?」



今日は起床時間よりも大分前に目が覚めてしまった。
二度寝してもよかったが、それで寝坊してはい減点、なんてことになっちゃ困る。

だから自主練がてら体を起こすための散歩をしていたのだが…途中で変な女に声をかけられた。

こいつ…誰、だっけ。
確か最近、ミカサ達とよくいる…ダメだ、名前を思い出せない。

女は色素の薄い髪をなびかせ『真面目だねぇ』と笑っていた。
だから誰だあんた。



『噂で聞くにはもう少し怖い人かと思っていたよ』

「……その噂ってなんだよ」

『最近女子の間で“恋ばな”というものが流行っていてね…君の名前が上がっていたから』

「…ハッ!そんなくだらねぇ話してる暇があったら訓練でもしてろってんだ」



女は『本当に真面目だねぇ』とまた笑った。

顔がニヤけそうになるのを必死でこらえる。女子の恋ばなで俺の名前が上がって嬉しくない訳がない。
だがここで露骨に嬉しそうにするのも俺の株を下げかねないから、冷静なフリをする。


それにしても話をしていたのは誰だ?サシャか?クリスタか?
でも俺が望んでんのは……



『誰だっけ……ああ、ミカサも君のこと褒めていたよ』

「……は、」

『確か“彼の立体機動装置の扱いが上手なところは認める”だったかな?』

「………おい、それ……まじか?」

『ん?ああ、うん、本当に言っていたよ……ぬあっ!?』



気づいたら俺は女を揺さ振っていた。まじか。嘘じゃねぇだろうな。嘘ついてたらぶっ殺すぞ。

ガクガクと揺らす。
『うっ、や、やめっ…本当だって…』と女が苦しそうに言ったので、慌てて手を離した。

やべえ、つい取り乱しちまった。
このことをこの女がミカサに言ったらせっかく上がった俺の株は一気に急降下だ。


心配して女を見れば、女はニヤニヤ笑っていた。



「なっ、何だよ」

『ふふっ、君はこういうことに興味なさそうな感じだったけど、案外そうでもないんだねぇ』



女が『君はミカサが好きなんだね』と言った瞬間、顔が沸騰したように熱くなった。

しまった。ばれた。ひた隠しにしてきた思いを名前も知らねぇ女に知られた。くそ、恥ずかしい。



「お前…誰にも言うなよ」



凄んでみたものの、効果はない。
依然ニヤついた顔で俺に『言わないよ』と言った。



『大丈夫、私が協力してあげよう』

「……は?」

『私はミカサと仲が良い。私ができることをしてあげよう』



気づけば俺は再び女を揺さ振っていた。しばらくして手を離すと、女は苦しそうにうめいていた。

こいつ良い奴だ。そうだ名前。俺はこいつの名前を知らねぇ。



「あんた名前は?」

『……ん?私かい?私はキーリ・オーパスタ。よろしく』



差し出された右手を握り返した所で、起床時間を知らせる鐘が鳴った。



『それじゃ私はこれで。後でいいことを教えてあげるよキルシュタイン君』

「おいあんた」

『ん?』

「ジャンでいい。俺もキーリって呼ぶから」



女は驚いた顔をした後、ふわりと笑って『うん、じゃあまた後でね、ジャン君』と去って行った。





これが、俺とこいつの出会い。





早朝に密会を

(変な女もいたもんだ)






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