コード・ブルー

□Blue note
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橘啓輔は、私の前にふらりと現れて、ほかのスタッフのいる前でこう言った。

「お、君可愛いねぇー。今夜空いてる?」

翔陽大学附属北部病院救命救急センターの部長として来た彼に、盛大に破顔したのを思い出したら脈が荒れそうだ。

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あれから数ヶ月後。。。
藍沢、白石、緋山、藤川たちと救命に携わってきた。

大規模な事故も、仲間の起こした事件も、仲間の大事な人が亡くなった時も、皆傍にいて支えあって乗り越えた。絆も強まった。

そんな私に事件が起きる。










「栞、橘先生が呼んでたぞ」


藍沢がカンファレンスの済んだ患者のフォイルを片手に詰所に戻ってきた。


「橘先生が?」
「そうだ」


何の用だろうと首を傾げてると、珍しく、ふっと笑って藍沢が言葉を続ける。


「楽しそうだったけどな」
「楽しそう?」


余計に意味不明。


「とりあえず行ってくる、部長室?」
「あー、と言いたいとこだがもう後ろにいる」
「は?」


振り返ると詰所の入口でカッコつけて立ってる橘先生がいた。


「藍沢と楽しく喋ってんじゃないよ〜、僕が呼んでるのに」
「や、今から行くんですよ」
「もういいや、僕来ちゃったし」


ほんと、毎度思うが、【僕】ってキャラじゃないだろって思うのね。


「ご用件は?」
「あー、んーっと、ここで聞きたい?」
「いつものような大した用事じゃないでしょ?」


思わずタメ語で返事をしてしまった。いつもそうだ。大した用事も無いのに呼び出して、『飴食べる?』『これ僕の代わりに出しといて』など雑用や雑用にもならないしょーもない用事を頼むのだ。


「んー、言うよ?」
「なんでしょ」


そうして、橘先生は、詰所に爆弾を投下した。


「ねー栞ちゃん、僕と結婚前提に付き合ってくんない?」


持ってたカルテを落とす私。固まる藍沢。たまたま入ってきた緋山と白石も声が出ないのか口を開けたまま固まる。冴島だけはソルラクトを何個かカートに載せる作業を辞めなかった。冴島はよく知ってるからね、驚きはしないとは思う。


「た、橘先生。あの、何を言って…」
「僕と付き合ってほしいの」
「え、だって」


三井先生居ますけど、大丈夫なの?頭、大丈夫なの!?


「あ、僕ちゃんと独身だよ?」
「わ、わ、分かってます!けど、」
「僕のこと嫌い?」
「や、嫌いじゃないですけど」
「そう!良かった。」
「ちょ!好きとは言ってないです!」
「あ、僕も言ってないね。栞ちゃん、好きだよ?」
「そんなこと言うとんちゃうねーん!!!」


おっと、隠し続けてた関西弁が出た。詰所も人も固まる。


「橘先生!もう!」


顔の火照りが消えない。熱い!赤みが取れない!いても立ってられなくて走って逃げるしかなかった。
飛び出したその先で藤川に衝突する。ごめんも何も言えないまま走り去る私。
『ちょ!なんとか言えよ!』と声を張る藤川。すまん。止まれないのよ。


そうして屋上まで走り抜ける。


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「ったくよー、山崎のやつ、ぶつかったのになんにも言わないんだぞあいつ」
「そこにいたアンタが悪い」
「だね」
「緋山も白石もひでーな!藍沢ぁ!どうなってんだよー!」


藤川がずれたメガネを直しながら問う。みんな、黙ってた方が面白いと思ったのか、あえて言わない。


「さぁ、な」


藍沢はカルテに記入しながらICUに向かう。やっと人が流れ出した。ナースもドクターも時が動き出したかのように忙しく動き出す。


「橘先生、栞、屋上だと思います」
「あぁ〜、冴島。ありがとう」


そう言ってドクターコートを翻して屋上に向かう橘。
冴島はその後ろ姿を見て、フッと微笑んだ。
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