夢小説。そして……

□おかえり。
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人が多く集まっているのは
やっぱりお墓を真っ正面に眺められる
中央付近
皆、主のいない親父さん用の盃に酒を注いでは涙に暮れている。
そのなかでも豪快に呑んでいるのは
いつもの飲んだくれ二人だった。

ラクヨウのおっちゃんは
相変わらず不機嫌を微塵も隠さずに
私を近くまで呼びつけて
目の前に座るように言うと
横に居たフォッさんも何を言い出すんだ?と神妙に構え直した。

「…………元気してたか」

『………お陰さまで……』

一発目から壮大に怒られるかと固唾を飲んだけど
あっさりスルーして
今日は珍しく素面のような口ぶりで真剣そのもの。
まぁ数時間前にあんな出来事があれば
四六時中酔っ払ってるようなおっちゃんでも真っ当にもなるよね。

「俺はガッカリしてんだよ。テメェ…俺にくらい何か言っとけ……二度と隠し事すんじゃねェよ」

親父さん用の盃の酒が溜まりにたまって、それをいきなり掴んだかと思ったら
おっちゃんが一気に胃に流し込んで
その盃を立てて私を睨んだ。

もう二度と…。

おっちゃんは私を許してくれているんだと思った。

「御返杯」

渡された盃を一徹返しで綺麗に回して返すと
よろけたおっちゃんが少し涙ぐんでいたように見えた。



人だかりをすり抜けて浜辺の方へと行くと
波を眺めているビスタさんが
普段とは違う笑顔で私を迎えた。
思わず近くに行って正座してしまい
また苦笑いで「足崩してくれ」と言われてしまう。面接か。

「痛かったろう?許してやってはくれまいか……マルコの事」

こんな時にも紳士だ。
そう思いながら顔を見上げると
まだ苦笑いの彼は私の頭を優しくなでた。

「きっとお前の優しさは皆にも痛いくらい伝わっている……」

視線を水平線に移した彼はグッと悔しそうな表情をして
それからまた私の方を向いて
にっこり笑って
「おかえり」
と私を抱き締めてくれた。

でかい胸板!!
静かに抱かれたまま
暖かい気持ちになってる自分に
少しだけ罪悪感を覚えた。

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