青いひよこの夢

□白と黒と赤(原文)
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目が覚めて一番初めに見たものは白い天井。次に見たものは点滴のチューブと俺の手を握って泣きそうな顔して俺を見てるお前さん。俺はお前さんを知っていると思う…というよりは感じた。でもお前さんが誰なのかは思い出せないんだ。ズキッと痛む頭。体を起こして発した言葉は「」

お前さんは傷ついた顔してそのままこの白い部屋を出て行った。窓から見える景色は何も見えない真っ白い光だけ。しばらくしてお前さんが医者らしき人物を連れてこの白い部屋に戻って来た。医者は一通り簡単な診察をしてお前さんを連れてまたこの白い部屋から出て行った。なぁ何も言わねぇならせめて

それからこの白い部屋に足を踏み入れるものは誰もいなかった。お前さんは俺を置いて行った。来るのは全自動看護師型ロボットだけ。つまらない。前は全てが色付いてキラキラ輝いて見えていたのに。今は全てが真っ白い。何故だろうか。何故、俺は世界を知っている。そして脳裏で一段と綺麗に輝く赤い色を

余りにも暇過ぎてつまらないから看護師型ロボットに話し掛ける。型にはまった返事ばかりでとても面白くない。この白い部屋からは出られないし、俺は白いベッドに縛り付けられてる。動くのは上半身と足の指くらいのもん。窓を見るけど何も見えない真っ白い光だけ。ある日ロボットが植物をくれた。

小さい鉢に入って懸命に生きてる緑色のサボテン。触ると刺がチクチクして痛い。そいつを窓辺に置いて育てる事にした。それからこいつが俺にとって唯一の喋り友達になった。毎日水をやりながら話し掛ける。全てが真っ白いこの狭い世界で唯一の色だった。その綺麗な緑色を見ていると何故か心が踊ったんだ

数日後、ロボットが今度は綺麗な赤色をした小さな花をくれた。俺はサボテンの隣にそいつを置いてサボテンと一緒に育てることにした。またお喋り友達が増えた。こいつらをくれた奴の事も気になるけど無視した。鉢の色も珍しく黄色と薄い桃紫色。二つをずうっと見ていると楽しく穏やかな気持ちになった。

そしてまた数日後、ロボットがまたまた小さい鉢に入った植物を持ってきた。今度は橙色の鉢に桃色の花。こいつも窓辺の赤色の花の隣に置いて育てる事にした。またまたお喋り友達が増えた。水をやりながら三つを眺める。緑はドキドキ心が踊る。赤は楽しく穏やかになる。桃は少し艶っぽくでも安心する

そしてサボテンを貰った日から見ていた夢を頻繁に見るようになった。緑のジャケットを翻し毒々しい笑みで笑う人物。赤いジャケットを靡かせ子供の様に笑顔を浮かべる人物。桃色のジャケットを棚引かせ妖しくしかしどこか影のある微笑みをこちらに向ける人物。全員同じ人物。その隣にいつもいるのは

目が覚めた。体は汗でびしょ濡れだ。頭を抱えて先程見た夢を思い出す。そうあの人物の隣にいたのは…紛れもない自分。部屋のドアが開いた。丁度いいタイミングでロボットがタオルを着替えを持ってきた。監視でもされてる様だ。ここにカメラは無いのに。タオルで汗を拭いて新しい服に着替えた。

「 」自然に口から溢れ出た言葉。知っている様な知らない誰かの名前。もう一度繰り返し言葉にしてみる。心臓がドクドクと脈を打つ。この白い部屋が色付いていくきがする。窓辺に近付き緑、赤、桃と手に取ってその名前を呼ぶ。最後、三回目に呼んだ瞬間目の奥で火花が弾けた。

顔上げて窓開けてみた。真っ白な光しか見えなかった世界(外)は丸い形をした綺麗な黄色と目いっぱいに広がる藍色。初めまして、こんばんは。「次元」それは多分俺の名前。振り返る。白いドアの前に立っている黒い人物。一歩一歩近付いてくる。その度に心臓が跳ね上がり顔と全身が熱くなる。お前さんは

月明かりに照らされて見えた顔は悲しげな嬉しそうな笑顔を浮かべてた。その人物は目覚めて初めに見たお前さん。反射的に俺はお前さんに駆け寄り抱き着いた。ドキドキ全身の血液が沸騰するような熱。懐かしく心地よい。沢山沢山抱き締める。苦しくてとても嬉しくて。やっとやっと取り戻せた俺の色。

数日後…あの白い部屋に主の姿は無かった。もちろんあの三つの植物達も。只、白いカーテンが風に靡いていた。ロボットはシーツの上に見つけた。既に完了した予告状を。それをゴミ箱に入れ燃やした。閉じられた白い部屋。開いたままの窓からは世界と幸せな物語が見えた。

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