夢であり、現実であり、そして恋でした

□立ち止まれない君へ
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ほのかな暖かさが身体にはあった。頬に触れた風が冷たく感じ、身を縮ませる。遠くの方では子供たちの賑やかな声が響いていた。次第に大きくなっていくようなそれは段々と耳障りとなり、瞼を強く閉じる。
途端、ピタリと止んだそれに違和感を抱く。代わりに何かを掻き分けるような音が近づいてくるのをただ感じていた。


「……、」


目の前にはこちらを覗き込むかのような大きな目。自分の身体が大きく跳ねて、距離をとろうと起き上がる。そうやって自分が今まで寝ていたことに気付いた。


「あ、起きた。生きてるよこの人」
「なんだ、生きてるのかよ。死んでたら事件の始まりだったのによー」
「ちょっと!そんな言い方…」

「…だれよ、あんた達…」



それがやっとの事で出た言葉だった。自分の前には三人の子供達。高さ的には小学生の低学年辺りだろうか。彼らを見るその背景には木々がずらりと並んでいる。すぐ近くには自分の腰辺りまでありそうな草が一面に生えていた。そんな自分がいる場所は根元で切られてしまった幹の上。そこまで大きくもないそれは足を伸ばせば簡単に幹の外へと放り出される。


「す、すいません、全く動かなかったので心配になって…」
「おいピア!謝ることなんてねえよ。行くぞブルーノ」
「はいはい。お宝手に入ったし当分ここはいいや」
「さっそくラクサ様に渡そーぜ!」
「あ、ちょっ…」


背を向け歩いていく三人の子供たちを呼び止めようとする声は出なかった。取り残され、周囲を見渡すが先ほどと何も変わらない風景がそこにあるだけ。木の幹から地面へと足をつけ、立ち上がれば木の向こうへ子供たちが歩いて行ったのが確認出来た。
手首に違和感を感じて見ると小さなてんとう虫が這っていた。思わず振り払えば飛んだ拍子に羽を広げ羽ばたいていく。そうしてまた見て、腕に付けていたはずのブレスレットが無いことに気がついた。すぐさましゃがみ地面と対面するがあるのは土のみ。
無い、無い。焦る度に口から零れる言葉は心臓の動きを速くする。吹き付けた風に揺れる髪が視界を遮ってうざったい。耳にかけたくても汚れた指じゃかけれない。それにかけたとして、下を向けば落ちてくるのだからなおさら。苛立ちが高まって声を荒げそうになったその時、どこかでパンッ、と破裂音がした。


「…お祭り、?」


連続で鳴る音はまるで何かを祝っているようだ。加えて聞こえてきた人々の喜ぶ声に先ほどの子供達の言葉が頭を過る。



"お宝手に入ったし、当分ここはいいや"

"さっそくラクサ様に渡そーぜ!"



「…まさか、」


その場を立ち、汚れた指をそのままに歩き出す。ここがどこだとか、今向こうで何があったとか、ラクサ様とは誰だとか。そんな事どうだっていい。子供達がお宝と呼ぶそれがあのブレスレットで、誰かの手に渡るのだったら。

駈け出す理由は十分だった。

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