violet

□藍色の華B
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暑い。


七月に入ってからというもの、うだるような暑さの日々が続いている。


しかもこの時代錯誤な建物の中だ。

雰囲気作りの為だがなんだか知らないが、エアコン位設置してくれてもいいのではないだろうか?



「......で? こんな真っ昼間に叩き起こしやがって 何の用だ?」



午前10時頃、薄手の布団にくるまって寝ていた土方は、ペシペシと頭を叩かれる感覚と 開け放たれた窓から射し込む日光で目を覚ました。



「怖い顔すんなよ。 人間、昼間活動して夜には寝る生き物だろ?」


「そう思うなら、夜中に仕事させられるの どうにかしてくれ」


「いや、仕事だし。 俺 経営者じゃないし」


「なら起こすな。 寝かせろ」



寝起きに この朱髪を見るのは、多分色々な意味で目に良くない。

こいつには何の非も無いが、疲労して寝ているところを 無理矢理起こされれば、誰だって気分の良いものではない。



「あー!! 待て待て! 二度寝するなって!!」


「っせーな!! 何だよ!」



再び頭から布団を被ろうとしたら 大声で引き止められた。

ここまで来ると、いい加減 目も冴えてくる。


怒鳴って文句を言おうとしたら、目の前に数枚の紙が突き出された。



「これ、何だかわかるよな?」


客引きが手にしていた紙は備品等の注文書だった。

それには、衣類から この建物自体の維持費まで結構な量が記されている。



「お前は俺に怒鳴られたいのか? そうじゃなかったら馬鹿にしてるのか」


「からかってます」


「帰れ」



今度は容赦なく布団を被り、背を向けた。


俺の貴重な睡眠時間を返せ。



「冗談! 冗談だから!! とりあえず話聞けっての!!」


「......あ?」



あまりにもしつこいので、話だけは聞くことにした。

布団から頭だけ出し、亀のような体勢で 客引きに目を向ける。



「そもそも、俺がこの時間にここにいるって おかしいと思わねぇか?」


「...まぁ、住み込みの俺と違って、お前ぇの出勤は夕方からだしな」


「そう。そんな俺が午前中から土方さんの所にソレ持って遊びに来てるわけだ。 わからねぇ?」



もう少し分かりやすい説明は出来ないものなのだろうか。

回りくどくて疲れる。



「要点を得ねぇ。 もっとはっきり言え」


「今からこれ全部の確認と受け取り行ってきます。 ってことで、ちょいとばかし付き合ってくんねぇかなぁ......と」


「よくまぁ 外出禁止の俺にそんなこと言おうと思ったな」



ここではあらゆることにおいて俺に選択権は無い。

そして、『外出する』ということがなぜか許されていない。

おそらく、理由など無いのだと思う。

だから、勝手にここから抜け出そうものなら、どうなるかわかったものじゃない。



「だから午前中に来たんだよ。 ほら、今なら人少ないし。 少し位気分転換してもいいだろ?」


「バレてみろ。 ロクなことねぇぞ」


「バレなきゃいいんだよ。 バレなきゃ」



こいつが善意で言っていることは分かる。

俺も正直、出来ることなら外の空気を吸いに行きたい。

だが、それに対するリスクもあるし、何より昼間休まないと身体がもたない。



「......いや、悪いが 気持ちだけ受け取っとく」


「じゃあ30分後な。 土方さん、普段着持って......無いか。 拝借してくるからとりあえず待ってろよ」


「おい! 俺は行くっつった覚えはねぇぞ!!」


「『行かない』って言ったか?」


「言わなくてもわかるだろうが!!」



最後の方は伝わっているかどうかわからない。

まぁ、仮に伝わっていたとしても あまり意味は無いか。

客引きは、俺が全部言い切る前に さっさと部屋を出ていってしまった。

これは行かなければいけないパターンなのか?



「...はぁ......」



無意識のうちに 口から溜め息が零れる。

仕方なく思って、とりあえず布団から出ることにした。












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