violet

□藍色の華A
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「んー......」



束の間の休憩時間。

真新しい布団にくるまりながら 口の中の飴玉を転がす土方は、眠たそうな唸り声を上げると そのまま力無く倒れ込むように畳の上に突っ伏した。


時刻はそろそろ二十四時を回る頃だろうか。

もう少しで今日の地獄が終わると思うと、少しは気が緩むというものだ。



「なんで 掛け布団にくるまって畳にいるんだよ。 寒くねぇのか?」


「...あー...いたのか。 いいんだよ。 六月に寒ぃと思ったことはねぇ」


「そりゃそうか。 あ、珍しい。 飴玉嘗めてる」



いつの間にか部屋に入ってきた朱色の髪をした客引きは、俺の後ろに座ると 布団を剥がして顔を覗き込んできた。

少しは遠慮くらいしたらどうなのだろうか。



「さっき着物借りに行った時 廊下で貰った」


「甘党だったっけ? イメージ沸かねぇ」


「イメージ沸かれても困る。 『喉痛くて声出ない』っつったら寄越してきやがった」


「成る程な。 稼げってことか。 がめついこった」



冗談ぽく皮肉を言うこいつは、本気なんだか ふざけているのかわからない。


と、

不意に 部屋中に不規則な電子音が鳴り響いた。

おそらく 俺が世の中で最も嫌いな音の部類に入るであろうそれは、内線電話の呼び出し音だ。


頭から布団を被ったまま いつも通りの声で、いつも通りの受け答えをして、いつも通りのタイミングで電話を切る。



「残念。 間が悪かったな」


「本当にな。 あーあー、俺 来たばっかなんだけど」


「普通来ねぇよ。 いいからお前は持ち場戻れ」



「えー」と 渋る客引きを追い出してから さっさと用意をする。

10分程時間に余裕があると 連絡されたので 急ぐ必要は無いのだが、ついいつもの癖で 行動が手早くなってしまうから不思議だ。



「物も考えようだよな...」



そんな自分に呆れつつ、きつく帯を結び直す。













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