短編小説

□二人の願い〜其の弐〜
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第壱話を見てない方もいらっしゃるかも知れないので、

1ページ目は原作のまま。

2ページ目からオリジナルです。

…とはいっても半分くらいは原作からもってきてますが…。


原作より甘めです。




―――――――――――――










「うー…暑いなあ」


屯所にいたわたしは、わずかに声を漏らした。


「団扇でも持ってきましょうか?」


わたしのつぶやきに通りがかりの沖田さんが言う。


「朝晩涼しくなってきたとは言え、昼間はまだ暑いですね…」


「そうですね…

でもこれでも去年よりは幾分マシですよ?」


「うわ…これで…」


もしかしたら、これよりもずっと暑い年があるかもしれないということ?


わたし、乗り切れるかなぁ…。


「けど、暑いなりに楽しいことはあります。

例えば…」


「祭、とかな!」


突然平助くんが姿を現す。


「わっ…びっくりした…。平助くん、それは…?」


「見ての通り、絵馬だ。

久しぶりに壬生に行ったら、くれたんだ」


「わぁ…!」


感激の声をあげようとした時だった。


「…平助!」


土方さんの怒声が響き渡る。


「うわ、土方さん…やべ…じゃ、なかった!

副長!お早いお帰りですね!ご無事でなによりです!

…ど、どうしたんですか?大きな声だして…」


「なんだ…その手に持ってるものは」


「絵馬、ですね…」


「ガキでもねえくせに祭だと?なにを浮かれてやがる」


「壬生に行ったら、寺の住職が持ってけ、持ってけって…

こ、断るのも、悪いから…」


「…今がどんな時勢か、分かってるよなぁ、八番組長さんよぉ」


「でも、昔世話になった住職だし…!」


うわ…なんだか険悪な雰囲気?

二人の様子に、思わずハラハラしながら見守ってしまう。

どうしよう、ここは仲を取り持った方が…。


「あ、あの…!」


「まあまあ、お二人とも」


それまで黙って二人の様子を見ていた沖田さんが、笑顔で割って入る。


「総司は黙ってろ」


「いいじゃないですか、土方さん。

屯所に絵馬があったって、隊務に影響が出るとは思えませんけど?」


「ダメだ…締まらねぇ」


「昼間はまだ暑いですし、皆重い空気になってますよ?

庶民の催しに参加すれば、屯所も楽しくなると思うなあ」


「…屯所が楽しくて、どうする」


「それに筆があれば土方さんも俳句が書けるから、

ガミガミいうのもなくなって、いいんじゃないですか?」


「なにっ!?」


隠れた趣味にしている俳句を持ち出された土方さんは、

顔を赤くしてムッと黙り込む。


「じゃ、今年は特別ってことで!な?いいだろ?土方さん」


「…浮かれて怠けやがったら、ただじゃおかねえからな…

肝に命じとけ!」


そう言うと、土方さんはその場から退散していく。


「はー、怖かった…」


「ふふ、ほんとは自分だって嬉しいくせに…」


「でも平助くんは沖田さんのおかげで助かったね?」


「ああ、危なかった…

あの調子じゃ、まーた『平助、ちょっと来いっ!』って説教だもんな。

まさかこんなに早く戻ってくるとは…」


「でも、嬉しいな。皆でお願い事書こうよ」


「そうだな!」


「確か、昔もらった絵馬があるはず…。

取ってくるよ」


「ずいぶんと立派な絵馬だね」


沖田さんを見送ってから、わたしは平助くんがもってきた絵馬を見る。


「みんなで書くんだから、やっぱこれくらい立派じゃねえとな!」


「皆にも絵馬にお願いごと書いてもらわなくっちゃね。

どれくらい絵馬がいるかなあ?」


「非番の奴らから配って書いてもらうか」


「うん、そうだね」


「お待たせ。持ってきたよ」


その場に戻って来た沖田さんが持ってきたのは、

様々な種類の絵馬。


「わ、この絵馬、綺麗だなあ」


「さ、これで好きなお願いごとを書いて下さい」


そういうと、沖田さんは早速何かを書き始めた。


「何を書いているんですか?」


「鶴には家族の長寿を願う意味があるんです」


「へぇ…!」


「僕の場合だと、家族というよりは…新撰組の皆の長寿だけどね」


わずかに微笑み言う沖田さんに、わたしは少し胸が熱くなる。


新撰組の皆が家族…。


そう思えるのって素敵だな。


「もちろん、里香の長寿の願いも、ね」


「えっ…わたしも?」


「当たり前じゃない」


こともなげに言った沖田さんの言葉に、わたしは思わず頬をほころばす。


「よし…っ」


声がして、隣にいる平助くんの方を見る。


「平助くんは何を書いてるの?」


平助くんは筆を取って、器用に書き始めた。


「投網…」


「投網…?」


「確か投網は豊漁を願う意味があるんだったよね」


「へぇ…」


「魚がないと、元気が出ねえからな!

毎晩晩飯に出てきますようにっと!」


沖田さんと平助くんの手つきに関心していると、

そこに原田さんや新八さんが顔をのぞかせた。


「あ、良かったら絵馬に、お願いごとを書いてくださいね」


みんなに絵馬を渡していく。


「うーん、僕は何を書こうかなぁ」


「私も何にしようかなあ…。平助くんは?」


「ん?もう決まってる」


ニッと平助くんが笑みを浮かべる。


なんだろう、平助くんのお願い事って…。


気になりつつも、皆に絵馬を渡しているうちに聞くタイミングを逃してしまった。


皆なんて書くんだろう?


どんなお願い事をするんだろう?


皆もお願い事を書き終わって、たくさんの絵馬が集まった。



そして、その夜…。
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