短編小説

□甘い微睡み
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「エレンよ、俺に付き合え」


そう切り出したリヴァイ兵長に連れてこられた場所は彼のいつも清潔にしている自室だった


しかも訳が分からない事に俺は何故か兵長とベッドの上にいる


別に情事でって意味ではなく、ただ寝そべって向かい合わせに抱き締められていたのだ


いつも兵長のベッドに敷かれた真っ白いシーツは皺のない清潔感あるもので、そこから仄かに兵長の匂いがする


それが好きだ


まるで彼が傍にいてくれているような気がして


まぁこのベッドに寝る時点でいつも兵長が隣にいるんだけど


「あの、兵長…」


ずっとその体勢で、腰に手を回されてガッチリとホールドされたままの状態が続いている


声を掛けると「何だ?」と静かに言葉が返ってくる


「えっと…間違ってたらすみません。もしかして、兵長…疲れてませんか?」


終始落ち着いた様子の兵長は俺の問いに言葉を漏らす


「確かに、疲れてんのかもな」


「そうですよ。今日はもう休んで下さい。これ以上仕事したら倒れちゃいますよ?」


「馬鹿言え。俺はそんなに柔じゃねぇ」


そう言った兵長は不意にチラリと俺に視線を投げ掛けた


「だが、今日くらいはお前の言うこと聞いてやってもいい」


「え、本当ですか?」


珍しい事もあるなぁと喜ぶのも束の間、兵長は一瞬で悪い顔を浮かべた


「あぁ、お前がずっとこの状態でいるんならな」


「はい?!や、ちゃんと寝た方が、」


「異論は認めねぇ」


キッパリ言い切った兵長は逃がさんとばかりに俺の身体をきつく抱き寄せ直した


あぁ、これで本気で逃げ切れなくなった…


「諦めろ。大人しくしとけば俺も言うこと聞いて今日一日休んでやる」


「交換条件ですか?」


「エレンよ…今の状況でもっと色気のある言い方とか思い付かねぇのか」


「わ、分かんないですよっ。色気なんて言われても…」


「だろうな。お前に、ンなのあるわけねぇ」


「酷っ…」


思わず非難の声を上げるとリヴァイ兵長は楽しげに眉を上げてクツクツと笑った


「だが安心しろ。テメェが俺の下でアンアン喘いでる時はまぁ多少色気を感じちゃいる」


「ちょっ、何の話をしてるんですか!こんな真っ昼間にっ!」


唐突な情事話を持ち上げられて顔どころか耳まで真っ赤にゆで上がる


睨みつければ愉快だとニヤニヤと俺を見ている兵長は実に楽しそうだ


疲れてるんじゃなかったのかよ、と思わずボヤきたくなった俺は悪くない


「と、とにかく!大人しく寝て下さい!俺ちゃんと兵長の傍にいますから!」


少しばかり強引に話を元に戻す為に「ね?」と首を傾げる


すると兵長にしては随分アッサリ「いいだろう」と身を引いて頷いた


ホッと安心した俺は兵長の背に腕を回して筋肉のしっかりついた逞しい胸元に頬を擦り寄せる


一緒に寝る準備は万全だ


リヴァイ兵長の匂いに囲まれているとすごく落ち着く


視覚からも嗅覚からも兵長の存在を感じる事が出来る


つい上機嫌に顔を緩ませながら厚い胸元に頬擦りしていると、上から小さな呟き声が聞こえた気がした


(気のせいか…?)


何やら腰を抱く力も強まる


兵長を上目遣いで見ると視線に気付いて直ぐに「何でもねぇ」と苦笑した


「いいから寝るぞ。さっさと目ぇ閉じろ」


「はぁーい」


腰を抱いてない方の手で髪を鋤かれる


言われた通りに目を閉じれば、満足げに「おやすみ、エレン」と囁かれた


「おやすみなさい、リヴァイ兵長…」


微笑んでいるのか髪を鋤く優しい手つきと纏う空気に心地が良くなって、


俺は兵長の腕の中、眠りに落ちていった











(「…悪くない」。確かにあの時そう呟かれたような…)








END









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