NOVEL(長編)

□セカンド・ラブ2
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おはよー松岡」
「おはよ」
数日後のテレビ局。廊下を歩いていると、山口とばったりと会った。辛気臭くならないかと心配していた松岡だが、いつも通りの朗らかな挨拶にほっとした。
「あのさ・・・・・・」
そのまま松岡が通り過ぎようとすると、山口が躊躇いがちに引き留める。松岡が足を止めるも、彼は目を伏せてなかなか話を切り出そうとしない。
「その・・・・・・」
「山口くーんっ」
山口が口を開くのを遮るようにして、遠くから太一の声が響いた。
(まずいっ)
 松岡は反射神経でさっと踵を返し、じゃねっと慌ててその場から逃げ出した。
あっとその後を追おうとした山口のもとに、太一が駆けてくる。
「おはよ、山口君」
「ああ・・・・・・おはよう」
満面の笑みで擦り寄る太一の姿はまるで猫。そんな人懐こい彼に、山口は口元だけで微笑んだ。視界の端に、今しがた去った松岡の面影を引きずりながら。
松岡はパタパタと廊下を走りながら、思わず潤んだ目元をぐいっと拭った。こんな自分が情けない。
すれ違うスタッフに挨拶をしながら楽屋に一直線。ゴシックで「TOKIO」と書かれた張り紙のある部屋を見つけるなり、体当たりの勢いでドアノブを掴む。
ガチャン、バッタン!!
ふう、と深いため息を吐いて、松岡はへなへなとへたりこんだ。
「どないしたん松岡」
「わっ」
いきなり声がして飛び上がる。振り返ると、畳の上で寛ぎながらカタログを開いている城島がそこにいた。
「びっ・・・・・・くりした」
「んふふ、おはようさん」
「もーあんた存在感もうちょっと出してよ紛らわしいっ」
「言いがかりやわぁ」
理不尽な憎まれ口に、城島がほんわかと笑った。同時に、絡んでくる視線。ついこの間まではなかったその思わせ振りな仕草に、松岡はドキッとする。
「おいで、まぼ」
言葉が続かず口をパクパクさせている松岡に向かい、城島が誘う。挑発しているような、余裕のある笑みを浮かべて。こんな城島を松岡は見たことがなかった。
怖いと思う心と裏腹に、足が勝手に動いてしまう。
「な、なに読んでんのさ」
何だか悔しくなって、隣に座る時に余裕ぶってそう訊いてみた。城島はちょんと首を傾げ、
「パソコンの説明書。最近僕のノーパソ調子悪いんよ」
「・・・・・・駄目だ、文字の羅列が解読不可能な暗号に見える」
機械系統が苦手の松岡がこめかみを押さえて苦い顔をする。クスクスと笑いながら、城島はぱたんと本を閉じた。
「読まないの?邪魔した?」
「ううん」
一瞬顔を曇らせる松岡に、城島が首を振る。
「松岡」
「何・・・・・・わっ」
いきなり城島の腕が伸びてきたかと思うと、きゅっと両肩を掴まれた。何が起きたか分からない内にぐっと引き寄せられ。
ちゅ、とリップ音が部屋に響く。
吐息が頬を擽ったかと思うと、ふっと城島が笑う気配がした。
「先手必勝」
「・・・・・・っ」
低い声が鼓膜を震わす。はっと何が起きたか認識した松岡だが、もう一度重ねられる唇に思考を遮られてしまった。
「・・・・・・んーっ」
とろり、と熔けるような感触に、松岡は思わず唸った。城島の服をぎゅっと握る。キスなんて山ほど交わして来たはずなのに、どうして今更切なさに胸が苦しくなるのだろう?
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