NOVEL(長編)

□セカンド・ラブ
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 ひく、ひく、と、雑音の鎮まった夜の部屋に、青年の繊細な嗚咽が響き渡る。暫く彼の歪んだ泣き顔眺めていた城島だが、
「ん、松岡は優しいなぁ」
 ぽん、と彼の頭に手を乗せた。松岡がなかなか止まらない涙を袖で拭きながら、不思議そうに見上げてくる。城島は深く頷き、
「よう頑張った」
「別に頑張ってない、自分勝手なだけ・・・・・・」
「我が身が可愛いなんて当たり前やん。松岡は可哀想すぎるくらい健気で可愛えよ」
「な、何だよぉ・・・・・・」
かぁっと松岡の頬が赤くなる。城島は松岡の心の防備が緩くなっている事を感じ取り、やるなら今しかないかもしれないと思った。彼の弱った心の隙に入り込むのに多少の後ろめたさを感じない訳でもなかったが、
(僕かて慰め役に徹するほどお人好しちゃうで。ちゃあんと貰うもの貰わな気がすまんし)
 目の前で他の奴のために涙を流す松岡に対する、身も焦がれそうな熱い想いがメラメラと沸き上がる。いつまでもこの気持ちに蓋をして、素知らぬふりをするのは苦しい。他でもなく山口のために蓋をしていた反動が強すぎるのだ。今しかないと、弱腰な己に言い聞かせる。やってやる、とことん追い込んでみせる。
「僕がぐっさんならこないな子ぉをみすみす手放すなんてせえへんのになぁ」
「んな、仮定の話したってしょうがないじゃん・・・・・・」
「仮定なぁ、そうかも分からんけど・・・・・・」
城島がきゅっと松岡の手を握るのに力を込め、
「大事にするよ?」
「ちょ、何言って・・・・・・」
「せやなぁ、例えば箱にしまって一生いい子いい子してもエエかなー、くらい大事にしたるで」
「例え方が分からない・・・・・・ここに来る前酒でもひっかけたの?」
「犯罪やん。酔ってへんよ」
「馬鹿にしてんでしょっ」
 これでもギリギリのラインで含みのある言い方をしているつもりの城島だが、やはり松岡に通じるだけの手応えがない。でも分かる、彼の心が確実に揺らいでいる。
「ホンマに冗談や言うたら泣くとちゃうん?」
「あ、あんたのお惚けなんかに誰がっ・・・・・・」
「誰かさんのお惚けに踊らされて泣かされた癖に」
 優しく落としたい、早く手にいれたい、その期待と焦りが逆に乱暴な物言いに繋がる。むしろ、山口に対して溜まりに溜まった嫉妬が滲んでいる気がした。
 事実と違わぬ事が悔しく、松岡はむっと唇を尖らせて俯く。じわりと新しい涙で目尻が熱くなってきた。
そんな彼の顎を掴んで、城島はくいっと自分の方に向ける。松岡はびっくりして目を見開いた。その拍子に、溜まりかけていた涙がぽろっと落ちた。頬に指を這わせるようにして雫を拭ってあげながら、城島がゆっくり、
「騙された思て、僕のところへおいでぇな」
「・・・・・・え」
「僕なら松岡の事ちゃあんと分かってあげられる。大事にしたる」
「そんな・・・・・・」
「好きやねん、松岡」
真っ直ぐに瞳を覗き込んで告げられた言葉が、ドキリと松岡の心を大きく揺さぶった。呼吸が一瞬止まり、その言葉の意味を理解した時には、さあっと赤くなっていた。
ちゅ、と指が城島の唇に運ばれ、慈しむようにキスをされる。その温もりに、松岡はびくっと震えた。
「僕の恋人になってほしい、松岡だけを愛したい。松岡が僕だけを見てくれればそれでいい」
「えっと・・・・・・」
松岡は顔が火照るのを感じながら、突然の告白に思い切り戸惑っていた。どうしていきなりこうなったんだろう、ただ城島に手ほどかれるまま弱音を吐いていただけだった筈なのに・・・・・・!
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