Angel Life
□フラワーレイン2
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「ぜってぇアレだ!でっけぇよ、何か偉い奴居そうだもんな」
フラワーレインに入っては、隣で喚くヴェン。
「あー…うん。そうだね……」
遠くに見える他の民家より高く、晴れ渡った空を背にして建つビル。
とはいえ、タワーのように高いわけではない。
ここフラワーレインは、街の外同様。常に花が宙を舞い踊る。どうして落ないのかはわからないのだけれども…。
街に足を踏み入れれば何とも目立つのが、先程ヴェンが指さして言っていた建物。恐らく、あれが冒険者支援研究局本部なのだろう。
次に目立つものといえば、街を彩る花壇かなぁ…。花壇も多いけど、家の庭や玄関先にも必ず植木がある感じ。
「うェ!?」
「何してるの〜」
前を歩くネイが躓く。危うく転けそうになったが、レラが片腕を引っ張る。
「こっの街、花壇多いィッ!!」
「ネイうるさいぞ。周りに見られるだろうが」
花壇を見つめて足をダンダンッと、文句をつける彼女を横目にカリスはスタスタと歩いて行ってしまう。
軽い段差のような花壇もあるから、ネイのようにぼーっと歩いていると躓く可能性がある。
慣れないと安心してあるけないわね…。
「蝶々もいっぱいいるよ〜。ほら〜」
「ひぃぃいっ!?」
「うぉ!?」
咄嗟に隣を歩くヴェンの腕にしがみつく。
レラが蝶の羽を摘んで、あたしの顔の前に差し出してきたのよ…っ。
「……虫、嫌いなの?」
「う、うん…何か駄目なのよね……」
「やだァ…エルちゃんったらァ女の子ねェ」
虫も気持ち悪いけど、ネイもそこそこ気持ち悪い。
カブトムシやクワガタなら平気なんだけどなぁ…。
「可愛いけどな〜」
そう呟いて蝶を手放す。高く羽ばたく蝶は、いつの間にか花弁と混ざってわからなくなってしまった。
それにしても空を見上げているだけで飽きない街ね。
「おい、聞いたかぁ?最近、ヴィーナスレインの近くの森に変な魔物(モンスター)が出るんだと」
「知らねぇな〜。てか、近いな。大丈夫なのか?」
「さぁな…。ただそこら辺を彷徨いているらしくてな」
「こっちにも来るかもしれねぇのかよ。おっかねぇ」
木の下のベンチで仕事の休憩なのか、2人の男性の会話が耳に入る。
うん……これから住むことになろうヴィーナスレインが危ない。
「ねぇ、ヴェン」
「おう?なんだ?」
「……ヴェンは今の聞いてないと思うよ」
ポカンとしているあたり、聞いてなかったのね…。
どうやら勇人は聞いていたみたいで、
「……カリス。金儲けできるかもよ」
「その依頼が冒険(シナリオ)屋にあればな」
よくわからないけど、金儲けってことは退治でもするつもりなのかしら……。んんん…多分また足手まといになるんだろうなぁ…。
というか変な魔物(モンスター)てなんだろう。誰かが被害を受けていなければ、ヴィーナスレインの方の噂がこちらに流れてくるわけでもないだろうし。
急に走り出すヴェンと、それをふわふわと浮遊しながら追いかけるレラは多分何も知らない。
冒険者支援研究局に向かって歩いているものの、あの大きな建物はまだ少し遠くに見える。
「何してるの?2人とも」
街角の屋台から目を逸らさず覗いている2人。ひょいひょいとヴェンが手招きしてくるから、気になって屋台へ。
「凄いよ〜!お花お花〜」
「本物見たいじゃね?」
おじさんが甘い匂いを漂わせるピンク色の物体を、花の形にハサミで切っていた。
本物とは少し違って、何か硬そう……。
「……飴細工」
「ヴェンとレラはこれを食べたいのか?」
「うん〜!」
「オレは蝶の形の食う!」
後ろで見守っていたカリスは、少しため息をついて、
「自分の小遣いで買え」
「え〜」
「思わせ振りな態度とるんじゃねぇよ!」
「……期待させるようなこと言ってやるなよ」
「え、あぁ……すまん。その位の値段なら自分達で買えると思ってな」
200J(ジュエリー)という子供に優しいお値段。
こんだけ屋台の目の前で騒いでいるのにあニコニコと飴で花を作り上げていくおじさん。
「あれ?ネイは買わないの?」
あ、でもヴィーナスレインで全員分の飴買って、1番に舐めてたから要らないのかな?
「あれ?え?ちょ、ネイが居ないんだけど?」
「うぇ〜?さっきまでいたよ〜?」
辺りを見回してもネイらしき人物が見当たらない。
花壇の周りで遊んでいる子供達や、散歩をしているお母様方。その中にネイの姿がない。
「あの歳になって迷子とか子供かよ」
「ヴェンも人の事言えたものじゃないだろう」
あたしがキョロキョロしている頃には、ヴェンとレラも飴を買っていた。
「……どうせ女でも追いかけてんだろ」
「もうそのオヤジ癖をどうにかして欲しいものだな……」