砂時計

□少年の不運
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ネビルの処置が終わり、おできがほぼ消えかけた頃、マダムが医務室に帰ってきた。
マダムはアカネの処置の正確さを褒めてくれたので、アカネとしても一安心といった所だ。

処置が完全に済み、医務室を出て行こうとするネビルにも、マダムから見えないように、そっとアカネはお菓子を握らせてあげた。





泣き虫のあの子が、また怪我をしないといいなあ、などと思っていたのもつかの間。次の週の木曜日、再びネビルは保健室を訪れることとなったのであった。

「ロングボトム、また貴方ですか…」

マダム・ポンフリーの呆れた声が医務室に響く。
マダム・フーチに抱えられながらやってきたネビルの手首は変な方向にねじ曲がっていた。

(まあ、骨折なら呪文一つで治るだろうけど…多分他にも打撲とかしてそうね)

マダム・フーチが連れてきたという時点で、箒に乗っている時の事故であることは明らか。その上ネビルの服についた草を見れば、彼が箒から落っこちたことは想像に難くない。

「マダム・ポンフリー、私は打ち身を治す薬を持ってきますね」

「ええ、お願い。貴女は理解が早くて助かるわ」

「そんな…ありがとうございます」

最近マダムはアカネに対してとても優しい。
それはひとえにアカネの働きぶりに依るものだったが、時々終業時間を早めてくれたりするのはありがたかった。

アカネは医務室の薬品棚から必要なものを持ってくると、それをマダムに渡し、他の入院患者たちの元に戻った。
アカネは魔法を使えない。だから、魔法薬で治す怪我や病気は処置できるが、骨折や切り傷など、杖を使っての治療が必要な場合は何もできない。だが、それを生徒たちに感づかれるわけにはいかないため、『そういった』患者が医務室を訪れた時は、マダムに任せて、その場をさりげなく離れるようにしているのだ。


兎にも角にも、ネビルの処置にそう時間はかからないだろう。今回も大事にならなくてよかった、などと考えているアカネの元に、魔法で飛ばされた紙片が届いた。

「マダム・ピンスからね」

内容は、図書館の利用者が多くて、貸し出しと整理の両方に、マダムだけでは手が回らないため、いつもより早く図書館に来て欲しい、というものだった。幸い今日の医務室はそこまで忙しくない。おそらくマダム・ポンフリーも許可を出してくれるだろう。

少しずつ魔法用語にも慣れてきた最近では、仕事の片手間に本の内容を確認することもできるようになった。アカネは魔法が使えないが、これからここで暮らしていくのならば、魔法に関する知識は多いに越したことはない。特に、魔法薬に関する知識は、医務室を手伝うアカネには欠かせないものである。また、魔法薬ならば、魔法が使えないアカネにも精製が可能なのだ。
基本的には、医務室で使用する魔法薬はスネイプ教授かマダムが作るか買うかしているので急を要することではないが、いざという時のために魔法薬を作れるようになっておいて損はないはずだ。

そしてなにより、どういうわけかアカネは魔法薬学という学問にひきつけられていた。あちらの世界では文系志望だったし、数学はそれなりにできたが、化学はからっきしだった。実験自体は好きでも、理論と化学式が完全に受け付けなかったのだ。にも関わらず、何故かこの世界に来て、魔法薬学に妙な愛着を感じている。まるで何かに駆り立てられているかのように、手が魔法薬に関する本を求め、ページをめくる。
この不思議な衝動は確実に自分に何か大きな変化を与えてくれる、そんな予感がするからこそ、戸惑いこそすれ、嫌悪感は感じなかった。








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