砂時計

□少年の不運
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大忙しの8月31日が終わり、新学期が始まった。アカネは、入学式兼始業式でダンブルドアから全校生徒に向け紹介されて以来、ハリーと並んでちょっとした時の人だった。
ダンブルドアはアカネがスクイブであることは伏せ、生徒に対し東洋からの研究者と説明した。(むろん生徒からの差別を避けるためだ。)だが、何より一番大広間中に衝撃を与えたのは、アカネが18歳、つまり魔法界における成人だという事実だった。身長153cmの黒髪童顔少女(しかし年齢は自分達より上)の存在に、好奇の目が向かないわけがなかった。
幸いスリザリンも、日本というあまりにもかけ離れた国の魔術師(仮)に対し、純血云々の理論は持ち込めないらしく、今のところ蔑視の目で見られてはいない。

一先ず最初からこの閉鎖社会で爪弾きにされることはなさそうだとアカネは胸をなで下ろしていた。

そして授業が始まる。
図書館の本の整理は消灯後でも構わないということで、日中は医務室を手伝ったり、教授方の授業に必要なものを揃えたりするのが主な仕事になった。

「新学期が始まれば医務室は戦場になります」

マダムの言ったことは授業初日に身をもって知ることとなった。
魔法のある世界の怪我は、マグルたちのものとはスケールが違う。授業で、或いは喧嘩で、全身血塗れの者や顔面が変形した者、腕がありえない方向にねじ曲がった者などなど…etc
怪我の見本市かと言わんばかりに続々と生徒たちが雪崩れ込む。

(こりゃ、マダムもストレス溜まるわけね)

下手に口を開けばマダムの怒りは自分にまで飛び火し兼ねない。アカネは黙々と生徒たちの治療にあたった。


ようやく週末、つまり金曜日になり、アカネも仕事に慣れてきた頃、二人のグリフィンドール生がよたよたと医務室を訪れた。一人は付き添いのようだったが、付き添われている方の子の姿はまさに悲惨だった。
聞けばネビル、というらしい男の子の手足は真っ赤なおできに彩られ、本人も痛みのせいかズビズビと泣いている。
手早く処置をした方が良いのは一目瞭然だったが、一つ問題があった。マダム・ポンフリーが先ほど急用で医務室から出ていってしまっていたのだ。

(これは…私がやるしかないわね)

一応マダムからは、よほどの大怪我でない限り、自分がいない際の応急処置はアカネがやってもいいとちょうど昨日お墨付きをもらっている。
こうなったら、不安は残るが自分がやるしかないだろう。

「ミスター・ロングボトム、だったわね。申し訳ないけど、今マダムは急用でいないの。だから、私が処置することになるのだけれど、構わないかしら?」

アカネができる限り優しい声で話しかけると、ネビルはまだ泣きながら、小さく首肯した。

「ありがとう。ちゃんと治してみせるから、安心してね。…それと、ミスター・フィネガン」

「は、はいっ」

「ここまで付き添ってくれてありがとう。ロングボトムのことは私の方で引き受けるから、授業に戻っても大丈夫よ」

「わ、わかりましたっ。ネビルのこと、よろしくお願いします」

噂の東洋人との接触にガチガチに緊張していたシェーマスだったが、アカネの優しそうな表情を見て安心したのか、元気に返事をして医務室を出て行こうとした。

「あ、ちょっと待って。…はい、コレをあげる。残りの授業、頑張ってね。…マダムには内緒、よ」

アカネはシェーマスの手に小さなチョコレートを握らせて、そっと耳打ちした。
まだまだ単純な11歳の少年は、お菓子をもらえたことに喜び、顔を輝かせて出て行った。

「さて、お待たせ。ミスター・ロングボトム」

まだ小さくすすり泣いているネビルの方を向き直って、アカネは話しかけた。

「痛いかもしれないけど、ちゃんと治るからね。いい子にしてたらご褒美あげるから、頑張ろうね」

優しくネビルの頭を撫でてから、アカネは治療の準備に取り掛かった。
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