砂時計
□記憶の行方
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「…ふむ。では、君のいた世界には、この世界の未来を書いた本があるのじゃな?」
「ええ、その通りです。」
キラキラ光るブルーの瞳が探るようにアカネを見据える。
「そして君は、その本の内容を把握しているのと?」
「だいたいは」
アカネがはっきりと応えると、ダンブルドアは考え込むように長い髭を撫でた。
「…あの、私から一つ、お願いというか提案があるのですが」
「話してみてくれんかの?」
アカネは小さく唾を飲み込んだ。
「私にはこの世界にどうしても救いたい人がいます。」
「…それは」
「っ…軽々しく人を救いたいなどと言うものではないことは分かっています。けれど、どうしても彼に伝えたいことがある。知ってほしいことがあるんです」
そこでアカネは一旦言葉を区切った。
「…それが誰が聞いてもいいかね?」
「一応、今は言わないでおきます。貴方が…私の言葉をどうとるか、少し不安なので。ただ、少なくともヴォルデモートではありませんし、貴方にとって不都合な相手ではありません」
そこまで伝えたアカネに対し、ダンブルドアは小さく頷いてから、口を開いた。
「君の顔を見れば、その言葉が嘘でない事はすぐ分かる。じゃが…」
「分かっています。貴方とて、私という毒にも薬にもなる存在に好き勝手されるわけにはいかないでしょう。せっかくこの世界に私を留めたんですから。…だからこその提案です。
私はこれから、未来に起こりうる重要な出来事を全て、貴方にお話しします」
流石のダンブルドアも、アカネのこの言葉にしばらく言葉を失っていた。
「未来はまだ決まったものではありません。けれど私が知る未来は、この世界に私がいなければ確実に来るであろう未来です。…私はその未来を変えたい。けれど私には魔力はない…そうなんですよね?」
それは、昨日アカネが仮初めの身体を手に入れた時にダンブルドアから教えられたことであった。仮初めの身体が魔法でできたものである以上、魔法を感知することはできるが、アカネ自身に魔力はない、と。
「私だけが未来を知っていたところで、魔法が使えなければどうしようもない事もあります。ならば、貴方のように強く、そして先を見通せる魔法使いに記憶を託してしまった方が良いと思いました。」
ダンブルドアはアカネの奇妙な物言いに眉をひそめた。
「託す、と君は今言ったのう…その意味を聞いても構わんかね?」
「つまり…私はこの記憶を貴方に伝えたのち、手放します」