砂時計

□彼方と此方
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全ては偶然が起こした奇跡だ。たまたまアカネが病人だった。たまたまハリー・ポッターの世界の夢を見た。たまたま偉大な魔法使いに出会った。
全てが上手く噛み合った結果、アカネは今もここにいる。

ダンブルドアは身体と解離しやすくなっていたアカネの魂だけをこちらに留めた上で、身体となる仮初めの器を作り出し、魂を定着させるという離れ業をやってのけた。(その際アカネは分霊箱の原理を思い出した。)
そのお陰で、アカネは病魔に侵された身体から解放され、久しぶりに心地よい朝を迎えられた。
本来ならのんびりしたいところだが、今日に関してはそうも言っていられない。

そもそも、優しいだけではないダンブルドアが意味も無くアカネをこちらに置いてくれる訳が無い。
憧れて止まない、そして心から望んでいたハリー・ポッターの世界に本当に来てしまった以上、アカネにはどうしてもやりたいことがあった。
その為には、どう考えてもダンブルドアの協力が必要である。だから、これから交わす会話は上手く運ばなければならなかった。



アカネにとって、どうしても叶えたい願いというものは、元の世界では存在しなかった。賢く生きることを第一に、とにかく合理的に生きるよう、習慣づけていた。周囲から見捨てられないように、嫌われないように、与えられた生を精一杯「活用」していきるべきだと思っていた。それが、何不自由なく生かしてもらっている自分にできる、最善の行為であったからだ。

だがこの世界においては、アカネは完全にイレギュラーな存在であり、完全なる個の存在だ。
もはやアカネの生き方を制限できるものはいない
0のところに突然現れたアカネは恐らく、この世界にとっても、予想外のものだっただろう。そして、この世界の何処にも繋がりを持たない。アカネに対し、世界は干渉する術を持たない、とアカネは推測していた。

アカネの思考が区切れた所でタイミング良く、寝室の扉が開いた。

「おはようございます、ダンブルドア先生。寝室を貸してくださり、ありがとうございました」

「いやいや、気にすることはない。儂は昨晩いろいろと所要があったからのう…寝る暇すらなかったのじゃ。寧ろ、この老いぼれのベッドで君が快眠できたかが心配じゃよ」

「お陰様で、疲れもとれました」

「それは何よりじゃ」


そう言ってダンブルドアが軽く杖を振ると、部屋の端にあった椅子がベッドの脇まで飛んできた。

「さて、寝起きのレディに対して申し訳ないが、君とは今後の話をせねばならんのう。まずは…君の素性を教えてもらいたい」

(っきた…)

ここからの会話が、この世界でのアカネのあり方の全てを左右するだろう。

「…はい」

アカネは一つの決意を胸に秘め、正面からダンブルドアに向き直った。

「私の名前はアカネ・シジョウ、この世界の未来を知る場所から来ました」
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