砂時計

□夜中の邂逅
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コツン、コツン、と自分の足音が響く。

アカネはただ静かに其処を歩いていた。
此処がどこなのか、検討もつかなかった。ただ、気がついたら「此処」にいたのだ。
途方もない広さの空間を歩きながら、それまでの自分の行動を思い出そうとした。

瞼を閉じれば、先程まで自分がいた場所は鮮やかに思い出せる。
真っ白に染められた部屋、清潔すぎる自分の周り。まるで、部屋のせいで自分の人生までも白くされてしまったのではないかと、最初の数日間は何度も逃げ出したくなった。

だが、そんな気持ちも数日経つと薄れた。消毒液の鼻を突く臭いも感じなくなった。
勿論それには、体がその環境に慣れたという理由もあるが、何よりもアカネ自身が受け入れてしまったからかもしれない

…自分の余命が幾ばくも無いという事実を。




話を元に戻そう。
確かにアカネはつい先ほどまで、何本ものチューブに体を繋がれて、病院にある自室のベッドに横になっていたはずなのだ。もはや、自由に動き回ることすら叶わぬ身だということは、アカネ自身が一番よく知っている。
しかし、今こうしてアカネの体は、此処最近感じていた怠さが嘘のように、軽快に動くことが出来ている。

そこまでくれば、この状況を説明出来る理由は一つしかない。

「うん、これは夢っぽいよね」

(だって、そうじゃなきゃ説明つかないもの)

動く絵画に半透明の人型の物体、果ては勝手に動き出す階段。
アカネの身体の変調を差し引いても、この空間は明らかに自分の生きる世界ではない。

「…でもせっかくだし、ここは楽しんでおくべきかも」

現実世界では、アカネはもう二度と外の世界を見ることはない。
こうやって気ままにどこかを散策することも、見たことのない物に胸を躍らせることも、もう二度と出来ないのだ。

そう思えば、ますます今回のこの機会を満喫したくなった。
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