□Trick yet Treat
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「トリックオアトリート」

「……いや」

「トリックオアトリート」

「……なんだ、その」

「とりっく」

「もうそれはわーったから……!てかお前それ言う為だけに鮫柄に来たのかよ」

「今日はハロウィンなんだろ」



先程から顔色1つ変えない遙に、凛は耐えきれず溜め息をつく。



それはほんの数分前
凛がランニングから帰ってくると、校門の傍にぽつんと遙が立っていた。

凛が声を掛けるなり、遙はこの文句を繰り返し始めたのだった。



だが遙の言葉を遮ってから、凛の方はこちらを見て妙な表情で固まったまま。
疑問に感じた遙が首を傾げると、今度は軽く咽せ出す始末。

なんだこいつ。


「……何か、変なのか」

「変って、お前」



遙の言葉がまた見当違いとでも言いたいような、そんな声色。
確かに、季節のイベントに興味を持たなさそうな遙がハロウィン如きで鮫柄まで来ること自体、意外なことなのかもしれないが。



「1つ聞くけどな」

「なんだ」

「……お前、そのまま電車乗ったのか」


そのまま?
ああ、これのことか。



「凛のところに行くって言ったら、部室で渚と江につけられた。何かは知らな――」

「はぁあああああぁあ?!」


「……?そんなにおかしいのか」

「っ違ぇけど!何で確かめもせずにそのまま外に電車までしかもここ何処だと思ってんだ男子校だぞわかってんのか?!」

「わかってる」

「いやわかってねぇ!」

「さっきから煩いぞ」



だが、今自分の頭には何が装着されているのかがわからないのは確かだ。

ゴーグル程では無いが、妙に頭を締め付けて来る
正直てんで見当がつかない。

それに、何故そこまで凛が必死になってるかもわからなかった。
そういえば、会った時もまず凄い勢いで物陰まで引っ張ってこられたっけ。


なら確かめるまでと遙が自分の頭に手を伸ばすと――到達する前に凛にその腕を掴まれた。






「……菓子はあとでやる。で、ハル。お前は?」


「?」


「俺に貰いに来て、んでお前は手ぶら……って事はねぇよな?」


「……」



返事は無く、遙の視線が明後日の方向に注がれる。どうやらそのまさからしい。

やはり遙は守備が固そうに見えて実際こういう所は隙だらけ。だから目が離せない






「……決まりだな。」

「何、が」

身の危険を感じた遙は、ぎょっとして凛に視線を戻す。

予想通り、口角を上げた凛がそこにはいた。



「今は持ってねぇけど……部屋ン中なら何かあるだろうから」


「り…凛」


「来るよな?」


「べ、別にもう」


「言い出したのはお前だろ?しっかり仮装までしてきたんだしな」




ほら、と凛が差し出したの内カメラに設定された携帯の液晶画面。


写っているのは言うまでも無く遙の、何の変哲も無い―――



「――?!」




初めて自分の頭に乗ったものを目にした遙の顔がさっと青ざめる。


黒い髪から覗いてるそれは――




紛れもない「猫耳」だった。





「それに、菓子持ってねぇって事はイタズラ所望なんだろ?」

「ち、ちが」

「どっちにしろ俺の部屋行った方が都合、いいだろ」

「……俺、コンビニに」



凛の振り払おうと力を込めるが、時既に遅し。



「ま、お前が持ってたとしても変わんねぇがな」

「は」

「んな猫耳着けてうろちょろしやがって……
躾が足りない証拠だなぁ?」



ニヤリと笑った凛を見た遙は、半ば諦めがついていたという。










Happy Halloween!



end.






―――
――

Trick yet Treat
(お菓子いいから悪戯させろ)
凛さんにぴったりですね。

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