□失礼しました。
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凛の腕の隣に自分のそれを並べてみて
その差は一目瞭然。
まぁ、競うつもりはないけれど







「凛の……太いな」

と、呟いたら凛が物凄い勢いでむせたのが遙にはよくわからなかった。












所謂陸トレというものはランニング以外殆ど着手したことのない遙に対し
凛は毎日筋トレを欠かしていない。


かくいう遙の体も程よくしまり、しなやかな筋肉がついてこそいるが、日々の積み重ねというものには敵わないものがある。




「……妙なニュアンスで言うんじゃねぇ」

遙の言葉の意味をようやく理解した凛が溜息をつくも、遙の方は頭上にはてなマークを浮かべており
凛はがくりとこうべを垂らす。




「……ちょっとはお前も鍛えろよ」

腕をぺたぺた触ってくる遙に凛が言ったものの
遙は「嫌だ、めんどくさい」とだけ一言。




「めんどくせぇって……お前な」




呆れた声をあげた凛だったが、ふと何かを思い付いたか
小さく口角を上げて言ってやった。




「んな事言ってるといつまでたっても俺に勝てねぇぞ、ハル」


「……」


む。

そんな擬音が今の遙にはぴったりだっただろう。





昔ほどではないが
別に遙は勝ち負けのことはあまり気にしてはいない。
ただ、凛の言い方が気にくわなかった。



あれほど自分相手に躍起になっていた奴が、よくもそんな口を聞けたものか。






「−−怜に聞いたんだが」


少しの苛立ちも声色に乗せず
遙が口を切った。



「水泳だったら、筋肉をつけ過ぎると逆に泳ぎにくくなるんじゃないのか」



「あ?そのくらい俺も」



「それと」



異義を唱えようとする凛を遮り、遙は続ける




「お前のそれ、見せ掛けだけだったりしてな
見せるだけに鍛えた、役に立たない無駄筋肉」





−−勿論、これは本心からの言葉ではないが
凛への挑発文句としては的確だろう。



実際、凛の方は完全に苛つきが顔に出ている。ざまぁみろ。





「……んだとコラ」


「絡み方が完全に不良のそれだな」


「っせぇ!ったく言わせておけば……!」



「−−!」




いきなり立ち上がった凛は素早く腕を回してきたかと思うと
あっという間に遙を羽交い締めにしてしまった。




「そうお前が言うんなら…
確かめてみろよ」



ぐっと腕に力をこめながら凛はニヤリと口元を歪ませる。




「今から5秒……いや、10秒くれてやる。
それまでにこっから抜け出してみろ」



それが無理だったら……


「な、」





耳元に吐き出された言葉に、遙の顔がサッと青ざめたのがわかった。





そんな遙を凛はせせら笑う。




「クッ…んじゃ行くぞ
10、9……」


「っ……!」




慌てて体と凛の腕の間に手を差し入れるも、
びっくりするほどそれは動こうとしない。


羽交い締めにされていることで体勢が不安定になり、上手く力を入れる事もできない。



「6、5……おら、どうしたびくともしねぇぞ、あぁ?」


「ぅ……るさっ…!
っく……んんっ……」



思い切り押し込んでも、体をばたつかせてみても
凛のカウントと体力が容赦無く削られて行くだけで

しかも、わざと耳元で数えられるのだから
たまったものではない。



「さーん、にーい、いぃーち……」



「っ……凛、待っ…!」




「ぜーーーろ」




荒息混じりの遙の懇願も、
凛の前では笑い飛ばされるだけで終わった

それも、一際大きく息を吹き掛けられるおまけつき。







「ほらな。
さて、誰が無駄筋肉なんて抜かしやがったんだ……?」



一気に体力を吸い取られ、加えて耳に残る余韻のせいで
ぐったりしていた遙の肩がぴくりと跳ねる。



「言ったよな、もし抜け出せなかったら……」




「わ……悪かった、凛」






遙の体を畳に縫い付けながら
凛はぺろりと唇を舐めた。




「ま、何回でもイかせてやるよ」




−−筋肉をネタに凛をからかうのは
もう辞めよう


そう決心しざるをえなかった。









遙の受難は、まだまだこれからである。










end.





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