□アットホーム
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(同棲設定)









「ただい……ま」


「おかえり」






玄関の引き戸を開けたところで、俺はその場で固まっていた。


帰ってきたところで、ハルが出迎えてくれる事は今までにも幾度かあった。
つっても、声をかけた俺に気付いて、ひょっこり顔を出す程度だった。


しかし、何だっていうんだ今日は。


ハルは玄関の上がり口を腰掛け、
何故かするめいかを口に運んでいる
随分長居していたのか、
周りには他に雑誌なんかも無造作に置かれている。





「凛、何突っ立ってる」


「あ、いや……つーかお前こそ何してるんだ」


「見ればわかるだろ、するめいかを食っていた。真琴に貰ったんだ」




平然と言い放ちながら
俺に「凛も食べるか」なんて皿を突き出してくる。
……いや、別にいらねぇよ。




受け取る様子を見せない俺に
程なくしてハルは皿を引っ込めると、1つ手にとってぱくりと食べた。



「……割と今日は遅かったな」


もぐもぐするめいかを噛みながらハルは俺を見上げる。
その、何だ。その角度。
正直言ってやめてほしい。

(可愛いんだよ畜生)






「おい」


答えようとしない俺を不信に思ったらしいハルの声に、
俺の思考は慌てて現実に戻ってくる。




「…っあ、悪ぃ。
今日の帰りに後輩に捕まってな。
中々帰そうとしねぇから逃げてきた」


「可哀想じゃないか」


「いいんだよ、んなの別に……」





溜め息をつきながら靴を脱ぐと
そのままハルの横を通りすぎようとする。







……が、それは阻まれ、
何かに引っ掛かったかのように俺は前につんのめった。




「…っ?!な、何だ」





驚いて振り返ると
ハルが腕を伸ばして、俺のズボンの裾をぐっと掴んでいたのだ。
心なしか、その顔は拗ねているかのようにも見える












――その顔を見て
俺は一瞬で全て合点した







ハルは、ここでいつもより帰りが遅い
俺を待っていたんだろう。





心の何処かでは
そんな気はしていたが――
ハルの表情からそれが確信に変わって、頬の筋肉が危うく緩む所だった。






「……遅くなって、悪かったな」


「……そんなの 別に
気にしてなんか」




目を泳がせるハルに、思わず笑ってしまう。





「何故笑う」




ムッと眉をひそめるハルに余計に笑いそうになるのをこらえて
俺はハルのそばにしゃがみこんだ






その体を引き寄せると、
いとも簡単に腕の中に収るハル。






ぽんぽんその頭を叩いてやると
変わらず顔を曇らせながら、ハルの体の力が抜けていくのがわかった。









「凛」



「ん」





少し戸惑いの色を見せながら
ハルはそっと俺に身をすりよせた




「……おかえり」


さっきも言ったじゃねぇか、なんて
言い返す気は不思議と全く起こらなかった。







「……ただいま、ハル」









end.









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