□溺愛
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「……ざ、けるな」




俺の方も限界が近付いて来たところでハルを抱えたまま水中から顔を出すなり、
ハルは乱雑に俺の腕を振りほどくと、息を荒げながら俺を鋭く睨んだ。



まぁ、怒って当然だ。
流石のハルでも
少しは恐怖したんじゃないだろうか。




だが心做しか潤んだ目でそうも睨まれても、
全く迫力の欠片も無いんだがな。







「――ハッ、元はと言えばお前が悪いんだろ。
何回呼んでもシカトかましやがったのは何処のどいつだ?」





嘲笑混じりに言い放つと
また暫く俺を睨んでから、徐にぷいっとそっぽを向くハル。
俺のせいっちゃ俺のせいだが
その態度が小動物さながらで、思わず口角が緩んだ。









「まぁ、悪かったって、なぁ?」





水をバシャバシャはね上げながらハルに近付くと、
浅くはなったが未だ上下されているハルの肩に顔を預ける。


するとハルは――


ビクリと体を震わせ、ゆっくりと俺を振り返ったのだ。








――何だ?





その目は、怒りだけじゃない。
寧ろ、恐怖の色が勝っていた。











――こいつ、俺に怯えてるってのか。








先程生まれた感情がまた甦り、
ぞくぞくと背筋が震えるような感覚を覚える。






「――っ」






そのまま首に舌を這わせると、また肩が跳ねる。
口内を塩素の香りが擽った








「り ん」








慄くような、その瞳。
水の中でのあのハルの表情と今のそれが重なって、
更なる昂りが俺を襲った。










「良い顔だ――……」







あぁそうだ、その顔だ。













お前は俺だけにその顔を見せれば











俺の腕の中で、ただ溺れていれば
それでいいんだよ。










end.










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