□溺愛
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半ば気まぐれでハルを市民プールに誘って、奴は予想通り(口には全く出さないが)この上無く喜んで。


水と一体になって、心地良さげに漂うあいつが見れて、そこまではよかった、のだが。






「――おいこら」



「ハル」



「帰るぞ」



「ハァル!!」







さっきから何度も呼び掛けているのに、ハルは全く反応を示さないのだ。


刻々と近付く閉園時間を告げるアナウンスだって、聞くのはこれで何度目になるのやら。
寧ろ俺ら二人に向けて発せられてるような気もしないでもない。

とまぁ、そんな錯覚を起こしても仕方ないほど、周囲には人っ子1人見当たらなかった。


楽しんでくれているのは大いに結構だが、何事にも限度ってもんがあるだろうよ、なぁ?






もう一度叫びに近い声で呼んでみたが案の定、応答無し。
流石に腹が立ってきた。
俺より水が大事かよ、全くあいつは――……





そんな俺に、
ふと1つの考えが浮かび上がった。



割と手荒い方法ではあったが、幾度も行った警告に応えなかったハルが悪いんだ。

ここまで来たら強行手段でもとってやろうじゃねぇかってな。









ハルに気付かれないよう、なるべく音を立てずに入水する。
歩いて移動したりすりゃ一発だから、潜水する形でハルに近付く。

こちらから見ると、ハルは相変わらず全く何も気にした様子がない。
俺に気付いていないのか、
将又はまず俺の存在を気にもとめていないのか。
後者だとすれば余計に腹が立つ。




――いずれにせよ、俺をこう何度も無視するとはいい度胸だな、ハル?










出し抜けに俺は派手に音を立てて
ハルの背後に飛び出した
はっとハルがこちらを振り返る、が
「いい加減にしやがれ―――」
ハルに覆い被さった俺は、間髪与えずに
自分の体ごと水の中へハルを押し沈める
いきなりの事に驚いたか
ハルが珍しく目を丸くするのが見れた。






もがかれる前にがっちりとハルの体を腕で閉じ込めてやる。
力の強さなら圧倒的に俺の方が上だろう。
何度も逃れようと手足をばたつかせるような素振りを見せたが、
どれも徒労に終わっていた。


俺と違って何の前触れもなく水の中に引き込まれたのだ。いくらハルでもそう長くはもたないだろう。







こぽりと口から気泡が漏れ、
やはり息が続かなくなってきたか、ハルの顔が僅かに歪む。
虚ろな目が俺を捉え、憎々しげに光った。



そのときだ。







ゾクリと俺の背筋に何かが走った。
同時に、ある感情が、俺の中でむくむくと膨れ上がっていく。







腕の中で、苦しそうに身を捩るハルが、
苦しげに顔を歪めるハルが






なんというか――









――たまらなく、いとおしく感じられたのだ












――もっと、だ。







がぼっとさらに空気が吐き出され、もがく力が格段に小さくなる。



くしゃりと泣き出しそうなくらい、
一層ハルの顔が歪んだ。
















―――もっと、その顔を姿を、俺に見せてくれよ










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