□ブルー・ブルー
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「――おい、何ぼーっとしてんだよ」



ぼんやりと海の方角を眺めていた俺を見兼ねて、凛が溜め息をつく。いつの間にか足が止まっていたらしく、そこそこの距離が俺と凛との間で出来ていた。



「さっさとしろよ……ただでさえ妙な時間帯なんだからな」


そうなったのは誰のせいなんだか。
今日の朝飯に鯖を焼いて、昼飯に鯖を照り焼きにして、夕飯には鯖を煮込もうとしていたところ「日に三回も鯖は御免だ」と凛に撥ね付けられたため、急遽近所のスーパーまで赴いた訳で。

凛が何も言わなければ、今頃とっくに家で鯖をつついていたというのに。鯖を。


凛の視線を気にせず、もう一度海の事を考える。
昨日部活で散々泳いだところだが、既にもう水が恋しかった。いや、あれだけじゃ足りない。もっと、もっと、もっとだ。1日中泳いでいたい。何も考えずに、ただただあの冷たさの中に浸っていたい。




「――ったく…」


すぐ近くで凛の声が聞こえて、俺ははっと顔を上げた。
いつの間にかあれほど開いていた距離は縮んでいて、すぐ傍に凛が立っていた。有無を言わせぬ様子で俺からスーパーの袋をもぎ取り、そのまま行ってしまう。


――別に、俺1人荷物を持つ事が不満だった訳じゃない。
そんなこと凛だってわかっているはずだった。子供じゃ、あるまいし。
急に自由となった両手軽くをぷらぷらさせていると―――全くついてくる気配が無いことを察したか、凛はぴたりと歩みを止めた。




「……あ゛ー…っとにお前は……!」




また俺のそばまでずかずか歩いてくると、今度は
片方の袋を持っていない手で、俺の腕をむんずと掴ん、だ。
予想と外れたその行動に、思わず目をぱちくりさせる。凛のことだから、頭でも一発小突かれると思ったのに。




「おら……行く、ぞ」




一瞥もくれることは無く、ぶっきらぼうに言い放って、また歩き出す。
握られた腕をまたぷらぷらさせてみると、凛はぱちんとそれを叩いて、俺の手を握り込んだ。




「――とっと帰って、飯食うぞ」






ぼそぼそ呟く凛を何となくおかしく思いながら、俺は凛の手を握り返す。








「ああ」






end.









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