ワタシと標的

□トモダチ
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部屋に入ると、沢田はベッドの端に座って待っていた。電気はついてなくて、中途半端に閉められたカーテンの隙間から差し込む月光が部屋を照らしている。1人座れる程の間を開けて隣に座った。


「誰にも言ってないみたいで安心した」
「……うん」
「答えられる範囲でだけど、3つだけ質問に答えるよ。聞きたそうな顔してるし、黙っててくれたお礼、かな」


すると沢田は膝の上に置いていた手を握って質問をぶつけてきた。


「何で日本に、……俺達が通ってる学校にきたの」
「目的を果たす為に」
「君は敵なの!?」
「強いて言うならば敵だね」


2つ目の質問に答えた後、俯いて口を閉ざしてしまった。
ふと、思ったことがある。室内に二人きりのこの状況は好都合なんじゃないかと。
お前を殺す気はないと信じこませ、時間をかけて殺るより都合がいい。今、近くにいる守護者はランボだけ。ほら、チャンスじゃないか。


「まだ1つ残ってるけど、聞きたいことはそれだけ? ないなら帰るよ」


座るのをやめて立ち上がる。ギシ、とベッドが軋む音が静かな部屋に響いた。


「君は……」


やっと開いた沢田の口から微かに聞こえた、僅かに震えた小さな声。次の言葉を静かに待った。


「君は……、銀雪のシェナなの?」


あげられた沢田の顔。目が合って、沢田の表情を見たら“そうだ”とすぐ答えることは出来なかった。

お願い、違うと……違うと否定してくれ。

彼の瞳が、そう訴えてくるから。けれど、答えが変わることはない。


「……銀雪なんて知らないけど、私がシェナだよ。ごめんね沢田」


大きく開かれた瞳。嘘だ、信じたくないと思っているのだろうか。そんな彼に構うことなく私は、隠し持っていた小型の銃を沢田の左胸に向けた。


「これが現実だよ」


冷たく言い放ち、笑顔の仮面をつけた私は、容赦なく引き金を引いた。
傷口からどくどくと血が溢れ出し、沢田の着ているシャツを赤く赤く染めてゆく。撃たれた衝撃からか、後ろに傾いてゆく体。ぼふっとベッドに倒れた。


――はずだった。


「僕以外の人間に殺られるなんて許しませんよ、沢田綱吉」


目の前にいる沢田は霧になり、消えた。


「すまない骸。助かった」
「君を殺るのは僕ですからね。勘違いしないでもらいたい」


背後から聞こえた声に気づいた時にはもう遅かった。
部屋に響いた銃声。放たれた弾は私が握っていた銃に当てられ、衝撃に耐えられず離した銃は私の手元から離れて床に転がる。ビリビリと電気が走るような感覚が腕から全身に伝わり、反射的に銃を握っていた右手の手首を左手で握った。
痛みに顔を歪め、弾が飛んできた方を見るとリボーンくんが銃を構えて立っていた。
えっ、と戸惑った一瞬の隙をつかれて、突然現れたうねうねとした触手に手足を拘束されてしまう。なにこれ気持ち悪い…っ!


「大人しくしたほうが身のためだぞ」
「…それは無理だな」
「クフフ…仕方ありませんね。降参するまで僕が」
「いい、骸。悠也…いや、シェナ。少し話をさせてほしいんだ。攻撃はしないと約束するし、幻術も解く。だから君も何もしないと約束してくれ」


いつもと雰囲気が違った沢田。顔つきが少し変わり、ほんの少し眉間にしわを寄せて悲しそうな表情をしていた。額の炎は噂に聞く死ぬ気の炎だろうか。
話…か。教えられないことは喋らなきゃいいだけだしいいかな、なんて考えているのはピンチだからだろう。


「やはり君は甘いですね」
「だな。オレなら半殺しにして情報を吐かせるぞ」
「そういうやり方はしたくない」


その言葉を最後に、沢田の部屋は沈黙に包まれる。私の言葉を待っている様だった。

暗殺者にとって任務失敗は死だ。それは仲間に殺られるのではなく、ターゲット。つまり敵に殺られるのだ。仮に命が尽きずに帰還出来たとしても汚名が付けられ、更に命を狙われる。命を狙われるのはこの仕事をしている以上、仕方がないことだが。
やつの言葉に乗るか、乗らないか。情報を吐かせて命を奪うファミリーは何処にでもいる。……賭けだな。沢田だから大丈夫だと思うけど。


「……命を捨てる覚悟で言わせてもらうが、うちの組織の事を話す気はないし、そっちが得られる情報はほぼない。それでもいいと言うのなら話に乗ろう」
「構わない。ただ、此方が出した条件を破った場合は容赦はしない」
「こんな好条件の状況で、そんな馬鹿な行動をするやつがいるわけないだろ」


骸、と沢田が声をかけると、やれやれといった顔で霧の守護者“六道 骸”が幻術を解いたと同時に手足が自由になる。あの触手…幻だったのね……。


「さて、話ってなにかな? その後は帰してもらえるの?」
「お前が話す内容次第だぞ」
「そうか。まあいいだろう」
「全く、元アルコバレーノに“面白いものが見れるぞ”と言われて来てみれば…。無駄足でしたね。僕は帰ってココアでも飲みます」


とん、と三叉槍の柄で床を叩き姿を消した六道骸。いつの間にか開いていた窓から霧がさらさらと流れていくのを見た。自由だ。


「あの……聞いていいかな?」


いつの間にか戦闘モードを解いたらしく、いつもの口調に戻っていた。ギャップがすごい。
強気じゃなくて、もじもじというか、何だか弱気だ。


「どうぞ。約束だもの」
「どうしてオレを殺そうとしたの?」
「君がボンゴレファミリーの10代目だから。手を出されると任務に支障が出るし、ボンゴレ10代目を殺れば私の名も上がるでしょ?」
「…その任務ってなんなの?」
「それは言えない。依頼内容を漏らすのは禁じられている」
「お前、自分の状況わかってんのか?」
「私は命を捨てる覚悟で、って言ったはずだけど?」
「い、いいよリボーン! ちょっと黙っててよ!」


私に銃口を向けていたリボーンくんは小さく舌打ちをして銃をしまい、ポケットに両手を入れた。
それ言っちゃったら任務の成功率なんてなくなる。仮に此処から無事に帰れたとしてもすぐ消されてしまう。わからないの?


「あ、あのっ!」
「はい?」
「オレ…、オ、オレ達! 君の邪魔をする気はないし、出来るなら……君と友達のままでいたいんだ」
「……変なこと言うね。私に殺されそうになったのに、まだ友達でいたいと?」
「そういう人達なら沢山いるよ」
「私、女で暗殺者だよ? また命狙うかもよ?」
「そ! それは怖いけど! けど、そんなことはしないって思うんだ」


何処からそんな自信が湧いてくるのか。はずれだよ、これからもずっと狙うよ。本当……変なやつ。


「いいよ」
「ほんとに!?」


どうしてそんな嬉しそうに笑うの。悪いことしてる気分になるじゃない。仕事なんだから、仕方ないでしょ。


「ほんとに。但し、私が女だってことを教えていいのは沢田の守護者達だけだからね。男子校に通ってる意味なくなるから」
「うん! 約束するよ! これからよろしくね!」
「……よろしく」


すっ、と差し出された手。迷いながらも手をとりしっかりと握り返した。これで一先ずは安心だ。しばらくは手を出せないけど、長期任務だしね。気長に頑張ろう。

 


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