ワタシと標的

□私の秘密
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ニヤリと口角を上げるリボーンくんの笑みに、何故か悪寒がした。
久しく感じた事のなかった恐怖。今は考えては駄目だと思念を振り払い、戻ったらアランに調べてもらおうとやめにした。


「勉強だぞ」
「…なんだ、てっきりゲームか何かだと思ってたよ」


じゃさっさと終わらせよう、と鞄から今日の課題のプリントと筆記用具をテーブルの上に置いた。
4人でテーブルを囲んで課題を進めていく。沢田達は問題と戦いながら、私は睡魔と戦いながらだ。

ああ、眠い時って頭の回転が鈍くなるんだなあ…。

ぼんやりとした頭と霞む視界。会話無しの勉強会とは…。中々の攻撃力だ。
全ての枠に答えを埋め終わり、ペンを置いて体を伸ばす。その様子を見てちらりと私のプリントを覗いた沢田が「えっ!」と驚愕の声をあげた。


「もう終わったの!?」
「あ、うん。何で?」
「獄寺くんもまだ終わってないのに…」
「どーせ間違いだらけに決まってますよ10代目。オレが解けない最後の問題もこいつに解ける訳が……、答えを書いてやがるだと!?」
「へえ、悠也って頭いいのな」
「…普通だけど」
「リ、リボーンさん! これ合ってるんスか!?」
「ああ、全部合ってるぞ」
「んなっ!?」


相当悔しかったのか、目一杯握られた拳が微かに震えていた。


「獄寺は教えてほしくないみたいだし、沢田と山本の課題手伝うよ」


いいのかと聞かれ、構わないよと答える。
二人にわかりやすく教えていると、どうしてもわからないらしく、教えてくれと小さな声で言われた。


「ぷっ。素直じゃないね」
「っるせー! 早く教えやがれ!」


それからは私が先生みたいになり、3人の課題を見てあげた。途中でリボーンくんがエスプレッソコーヒーをくれたり、なんだかんだで少し楽しかった。





*****





気がつくと日が落ちて窓の外は暗くなっていた。当然部屋も暗くなっていて、私の周りに人影はなかった。…えっ?


「っ!」


どうやらテーブルに伏せて寝てしまったらしい。なんたる失態。ため息を吐いて立ち上がると、足下に何かが落ちた音がした。拾ってみればそれはブランケットで。寝てしまった私に沢田がかけてくれたのだろうか。畳んでベッドの上に置き、少し騒がしい1階へと足を運んだ。


「あっ! 悠也くんおはよう!」


私が起きてきたことに最初に気づいた沢田が声をかけてきた。その声につられてその場にいた全員の視線が私に集まり、声をかけてくれる。なんだか変な感じだ。
獄寺と山本がいないのは自宅に帰ったのだろう。


「ごめん、迷惑かけた」
「気にしないで! まだ慣れない生活で疲れてるはずなのに、オレの方こそごめん」
「なら良かった。あと、沢田が謝ることないよ。じゃあ、オレは帰る。長居して悪かった」


帰る為にまず沢田の部屋に鞄を取りに行こうと足を動かそうとした時、キッチンから髪の長い女の人がやってきた。


「あら、帰るの? せっかくママンがあなたの分まで夕飯の用意をしてくれているのに」


再度動かそうとした足はぴくりとしたたけで、次に私の口から出た言葉は「迷惑でなければいただきます」だった。





*****





「いただきます」


久々に食べる日本食、美味しい! という浮かれたことは口に出さず、無表情で目の前のご飯を箸で掴み口へ運ぶ。
今、私が此処にいて食事をしているのは食べ物につられたとかではなく、人の好意と食べ物を無駄にしない為である。これを仲間に言うと「暗殺者が何言ってんだ」と返ってくるが、当然の反応だ。


「ねえあなた、この間ランボくんとイーピンちゃんにケーキくれた子よね? あの時はどうもありがとう」
「い、いえ…」
「名前聞いてもいいかしら?」
「あ、えと、水沢悠也です」
「水沢くん、また何時でも遊びに来てね。おばさん大歓迎よ」
「はい」


沢田のお母さんは大らかでとても優しい雰囲気を纏った、沢田のお母さんって感じの人だった。商店街で会った時に感じたものはきっと、沢田に似た優しい雰囲気のせいだ。
お礼なんて言わないくていい。これからあなたの笑顔を奪うのは私なのだから。
色んなことを考えていたからか、私がまだまだ未熟だからか、頭上に飛んできている物に気づけなかった。気づいたのはそれに入っていたものを被ってから。


「ひゃぁあ!? な、なに!?」


熱い、とまではいかないが、温かくて味噌のいい匂いがする豆腐とワカメが入った、味噌汁が降ってきたのだと。なんて声出してんの私…。


「ラ、ランボ!? お前なにやってんだよ! ごめん悠也くん!!」
「ツナ、お母さんお風呂の準備してくるから着替え貸してあげて」
「わかった!」


ばたばたとお風呂の準備をしに行った2人。食事を続ける子供が2人と女性が1人。心配してくれる少女が1人。


「あららのらー。ランボさんのせいじゃないもんねー」
「ごめんなさいね、アホ牛のせいで」
「まだまだだな。あれくらいは避けれて当然だぞ」
「だいじょうぶ?」


はい、そうです。避けられなかった私が悪いです。でも言い方むかつく。煽ってるのかと聞きたくなるわ。


「水沢くん、お風呂の準備できたからどうぞ」
「すみません、ありがとうございます…」


廊下に出ると、着替えを持った沢田が階段を下りてくるとこだった。


「これ、サイズ合わないかもしれないけど」
「助かるよ」
「ランボのことは叱っておくから」
「うん、そうして。じゃ、お風呂いただきます」


――パタン


沢田が皆の所に行ったのを確認して私も脱衣場の扉を閉めた。まずシャツを脱いでサラシが汚れていないかの確認。うん、味噌汁でべったり。想定内だわ。
使う予定のなかった通信機をズボンのポケットから取りだし、アランにしまってある場所を教えてサラシ持ってきてと頼んだ。他の物をいじったら半殺しにすると釘を刺して。
塩でべたべたになった身体を洗い流して浴槽に浸かっていると、コン、とガラスを叩く小さな音が聞こえて窓を開けた。
言葉を交わすと気づかれる為、お互い無言。目的の物を受け取って、その場を直ぐ立ち去るアラン。だが私は見た。左手で口を押さえて走り去るアランを。あいつ後で蹴る。
身体を拭いて腰にタオルを巻き、サラシを巻き始めようとした時、不意に開かれた扉。咄嗟に扉に背を向けた。


「悠也くん、もし小さかったらこっち着て。父さんのなんだけど…」
「あ、ああ、ありがとう」


はい、と渡されるが受けとれるわけもなく、適当に置いといてと促す。ちらりと着替えの上にあるさらしを見た沢田が慌て始めた。


「包帯…? 怪我でもしてるの!?」
「あ、いやこれは」
「そんなに酷いならシャマルに……!!」
「待て」


脱衣場を出ようとした沢田の腕を掴んで引き止めた。振り返って私の胸元を見た沢田は固まり、徐々に顔が赤くなりはじめる。


「んなっ…!?」


息を吸い込んで声をあげようとした為、掴んでいた腕を引いて口を塞ぎ黙らせた。
大人しくなった沢田の口から塞いでいた口、私の唇を離した。


「今騒がれると困る」
「ごご、ごめっ!!!!」
「…はぁ。誰にも言わずに自分の部屋で待ってて。じゃないと沢山の命を奪うことになる」
「奪うって…えっ!?」
「お願い、…無駄な殺しはしたくないの」


少し考えて出した沢田の答えは「わかった」で、眉を寄せたまま脱衣場を出て行った。


「ふぅ…」


日本に来て4日、学校に通い始めて2日でバレるなんて早すぎる。しかもバレた相手がターゲットだなんて。
日本に来てから、というより沢田達といると変になるのだ。気を抜きすぎて素が出そうになったり、楽しいと思ったり。
片腕が塞がれているからと仕方なくキスをして口を塞いだりなど、いつもならしない行動をとる自分にびっくりした。
着替えを終えて脱衣場の扉を開くと目の前にリボーンくんがいて、肩が跳ねた。


「びっくりした…。風呂、空いたからどうぞ」
「遅ぇぞ」
「ごめんごめん」


2階に行く前に沢田のお母さんにご飯とお風呂のお礼を言って沢田の部屋に足を運んだ。
 


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