ワタシと標的

□彼女を知る者
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眠い、眠い、眠い。とてつもなく眠い。学校行きたくない。あー…でも任務だよ任務。頑張れ私。


何度もあくびを噛み殺しながらのろのろと通学路を歩いていた。
自分で言うのもなんだけど、私は仕事が早く一睡も無しに任務などしたことがない。報告書を書いた次の日は必ず休みを貰っていて、徹夜の日なんて一度もなかった。


…そう、全て報告書が悪い。


なーんて、レンさんの前では言わないけれど。…ああ、今誰かと戦闘になったら負けそう。


「…っ!」


何かが横から飛んできた。少し反応が鈍ったが、間一髪で避けられた。


「ちゃおっス」
「ハァ、……朝から元気だな」
「お前は元気がねぇな」
「荷物片付けるのに時間食って寝てないんだよ…」
「それでもちゃんと学校に行くのは偉いぞ。ダメツナなら休もうとするからな」


どうして子供に褒められてんの。やっぱり生意気。


幾度となく込み上げてくるあくびを噛み殺し、徐々に水が目に溜まっていく。今なら嘘泣きが出来そうだ。


…よし、保健室とやらに行って寝よう。


任務だというのにそんなことを考える私は相当駄目らしい。





校門前まで来た所で前方からターゲット達が走って来るのが見えた。
先頭から山本、沢田、獄寺の順で、最後尾の人だけが肩で息をしていた。


「なんとか間に合ったぁー…」
「足がお速くなりましたね…、じゅ…、10代目」
「え? そ、そう…かな?」
「獄寺はもうへばってるのな」
「んなことねーよ! この野球バカ!」
「まあまあ。朝っぱらから騒ぐなよ獄寺」
「そうだよごくで…えっ!? 何時の間に!?」
「はよー」


そっちが来る前にこっちが先に着いてたんだから、何時の間にも何もないよ。


「あ! リボーン! 居ないと思ったらこんな所に!」
「おっ。小僧も来てたのか」
「何でリボーンさんがこんなやつの、…そ、そういうことか」


まる聞こえの独り言を始めたかと思いきや、キラキラした笑顔でリボーンくんを見つめたり、此方を睨んだり挑発的な笑みを浮かべたり。一人百面相でも始めるつもりか。
ボンゴレの10代目ファミリーはバカなのか、アホなのか、天然なのか、何だか拍子抜けだ。


「丁度いいや。沢田、悪いけど先生に一限目は休むって伝えといてくれない?」
「いいけど…どうしたの?」
「眠い」


即答した私に沢田はそうなんだと苦笑し、了承してくれた。その横で10代目の手を煩わすんじゃねーよと吠える犬は相変わらずうるさい。


「んじゃ、また後で。早く行かないと遅刻するよ?」


私の声と重なる様に予鈴が鳴る。やばい咬み殺されると口にしながら沢田が走り出し、待ってくださいと後を追いかける獄寺と、早く教室に来いよなと言って2人を追う山本。
軽々と獄寺を抜いて山本てめぇと声を上げられ、山本は早くしないと遅刻するぜと返す。
これが彼等の平和すぎる日常。羨ましいくらいに。
またなとリボーンくんに背を向けて私も校舎へと足を進めた。








さて、どうしようか。

今の現在地は保健室前。嫌な感じをひしひしと感じて中々入れないでいる私を誰か助けて。…自業自得である。
エアコンが使用できて体を痛めることなく眠れる場所は此処しかない。此処しかない…!
よ、要はばれなきゃいいの。そうそう。私の演技力の見せ所よね。…よし。


「失礼しまーす」


意を決し、扉をノックして開けた。中に居たのは白衣を纏い、だらしなく緩められたネクタイをした、雑誌を見ている予想通りの人物で。


「野郎に貸すベッドは無いぜ」


いやここ男子校だから。野郎しか居ないから。無理言わないでよ変態ドクター。


「勝手に借りるんでお構いなく。先生はグラビア雑誌見ててくれてて結構ですよ」
「あ? …ん? 見ねぇ顔だな、転校生か? 此処には男に貸すベッドは無いんだ。わかったら帰りな」


雑誌から目を離して面倒臭いのが来たと言わんばかりの表情のシャマル。またの名をトライデント・モスキートという。


「野郎しか居ないのにそれはないですよ。借ります」


私がシェナだと気づかれてない。入ったもん勝ちだとベッドに倒れ込んだ。


「あ゙ぁっ!? てめぇ!!!!」
「寝かせてくださいよ」
「野郎に貸すベッドは無いんだ、よ!」


持っていた雑誌を筒状に巻き、ふざけんなと頭を叩かれた。そっちがふざけんな。


「診てくれとは言ってないんだ。ベッドくらい貸してやれ」


また何処からか現れたリボーンくん。神出鬼没すぎて怖くなってきた。


「あ、リボーンくん。助かるよ。この人の説得手伝って」
「リボーン、こいつと知り合いか?」
「ああ。ツナの友達なんだ」


こいつが? と失礼極まりない発言をして暫く考えた後、しゃーねぇなとベッドを貸してくれる事になった。


「オレが寝てる間は触れない方がいい…よ……」


私はそのままの体勢で眠りについた。










「おいおい。聞いたか今の」
「ああ。試しに触ってみてくれ」
「嫌だね」


シェナが短い眠りについた後、シャマルとリボーンは転校生について話をしていた。本人が同じ空間に居るというのに。


「例の情報は知ってるか?」
「ああ。優秀な殺し屋がボンゴレ小僧を狙ってるってやつだろ」
「そいつは女らしい」
「おっ、かわいこちゃんなら是非お目にかかりてぇな」


白衣の両ポケットに手を入れ、にやにやと笑うシャマルの心が沸き上がるであろう言葉をリボーンが発した。


「目の前に居るかもしれねぇぞ」


目の前とはどういう意味だ、と頭上にクエスチョンマークを生やす。目の前に居るのは生意気な転校生ただ一人。確かに綺麗な顔をしていたが、此処は野郎しか居ない学校。当然あいつも男だ。女が居るはずがない。
ここまで思考を巡らせ、あいつが女である可能性が一つだけある事を思い出した。


「変装してるっていうのか?」


もしこいつが本当に女だったらオレが想像したかわいこちゃんはどうなるんだと、眉間にシワを寄せた。


「確認してくれ」
「はぁ!?」


と言いつつもやはり気になるのか、そっとシェナへと手を伸ばし、俯せから仰向けにしようと両肩に手をかけた。


「ぶぺっ!?!!?」


シェナの肘が顎に当たり、とても間抜けな声を出して自身の顎を押さえながら、シェナと距離をとった。
忠告を無視した当然の報いだ。


「だせーな」
「リボーン…お前もやってみやがれ……」


もう俺はやらないと顎を押さえながら先程自分が座っていた椅子に腰を下ろした。


「あいつが寝てる時は触れない方がいいぞ」
「もう触らねぇよ!!!!」
「ツナが悪い人じゃないって言ってたからな、当たってんのかもな」


男か女かはいずれわかると、シェナの性別調査は中止になって終わった。
 


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