ワタシと標的

□潜入の前日
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エレベーターに乗って、10階のボタンと扉を閉めるボタンを押した。扉が閉まり、ウィーン…と上へ上へと上るエレベーターは10階に着くと同時に、ポーンと電子音を鳴らして扉を開ける。
大きな溜め息を吐いて無駄に疲れた、と自分の部屋の前に行きロックを解除した。
靴を脱ぎ、リビングへと続く廊下を半分歩いた時だった。誰か居る…と感じたのは。上手く気配を消しているみたいで何処に居るのかまではわからない。此方が気づいたことを悟られない為に自然な動作でノブを握り、リビングの扉を開いた。
特に荒らされた様子は無く、部屋を出る前と変わらなかった。でも誰か居る、それは確かだ。
ソファーに座り、テーブルの上に置いておいたボンゴレ達の資料の中から雲雀恭弥のだけを手に取った。


あ、もしかしてこれ見られた?……次からはちゃんと管理しよ、…っと、お客さんのお出ましかな。


さりげなくソファーに資料を置き、太股のホルダーから愛用の銃を取り出してバッと後ろを向いた。


「誰? キッチンに隠れてないで出てきたら? 来ないならこっちからいくよ」


そう言った後、すぐに姿を現したのは、黒髪で左サイドに銀のメッシュ、切れ長の目、アッシュグレイの瞳で、黒のスーツを着用している男。……って、


「さっすがシェナ! 気づくの早いな!」


同じ組織の仲間のうざったいアランだった。
何でアランが此処にいるのよ、と言いながらキッチンの方に向けていた銃を下ろした。


「ほら、シェナが心配だろ? 男だらけのむさ苦しい場所に潜入なんてさ。ボスに許可取って日本に来たんだ。オレの仕事は殆ど室内で出来るやつだし」


前半はどうでもいいが、確かにアランの主な仕事はハッキングなので機材さえ揃っていれば何処でも出来る。だが。


「だからって勝手に部屋に入らないで! その技術は仕事で役立てなさいよバカ!」
「びっくりドッキリ大作戦! それより何で髪切ったんだよ!? 柔らかそうな胸もない!」
「うるさいわよ変態! 男装しなきゃいけないんだから胸は潰すのが普通でしょ! 髪はウィッグが嫌だったの! もうアランが居ると落ち着けないから出てって!」
「それってオレのこ、」
「一発ぶち込むわよ」


白い目と冷たい声で言い放つと「きょ、今日は帰るとするよ! オレはシェナの右隣りの部屋だから!」そう言って大慌てで出て行った。もう来なくてもいい。


…って! 右隣りって何!? 有り得ない!


この瞬間、この瞬間だけ、レンさんを恨んだ。










翌日の朝、何か飲もうと冷蔵庫を開けたが中は空っぽ。昨日は外食で済ませ、何も買ってきていないのだから当然かと冷蔵庫を閉めた。
ふと視界に入った紙袋。こんなものあったかと中を見るとコーヒー豆の袋が入っていた。アランが書いたメッセージカードと共に。既に挽いてある豆を有り難く頂いてカードをごみ箱に捨てた。
コーヒーメーカーにコーヒー粉と水をセットしてスイッチを押した。
出来るまでの間に着替えを済ませ、煎れたてのコーヒーを堪能した。










買い物はこの辺りでいいかと並森商店街までやって来た。肉、野菜、魚、ケーキを適当に購入。両手が塞がってしまい、最短ルートで自宅に戻る。……はずだったのに。


「ねえねえ、それケーキ? ケーキだよね? ランボさんにちょーだい」
「ランボ! ダメ!」


ボンゴレの守護者に捕まってしまった。………本当に守護者なのか疑わしい子供だ。


「いいよ。あげる」
「いーーやったあ!!!! これ全部ランボさんのだもんね!」
「ランボ! …ごめんなさい」
「大丈夫。気にしなくていいから」


カンフー服を着た辮髪の少女に謝られたが、ケーキくらいで怒ったりはしない。この子は礼儀正しいのに何故こっちの牛はバカなのだろうか。


「ランボくーん、イーピンちゃーん。こんな所に居たのね。あら、ランボくんそれどうしたの?」


あれ…この女の人………誰だったっけ?


「このケーキはねー、もらったんだよー」
「まあ! すみませんありがとうございます。宜しかったんですか?」
「ああはい。気にしないでください。それじゃ、急ぐので」


ペコッと頭を軽く下げて別れ、先程行ったケーキ屋で同じケーキを購入した。










今日最後の授業が終わって、各々の生徒達は教室や廊下にちらほらと固まりだす。腹減ったーとか、ゲーセン行かね? とか、放課後の予定を決めているみたいだ。


「10代目! お疲れ様です!」
「ツナ、帰ろうぜ」
「あ、うん」


獄寺くんと山本に声をかけられて、オレは席を立つ。
下駄箱で靴を交換して、昇降口から出た所で背中に激しい痛みが走った。リボーンに蹴られたみたいだ。


「なっ、何なんだよいきなり!」
「ツナがちゃんと警戒をしているかの確認だぞ。今のは不合格だ。ぼへっとしてんじゃねぇ」
「無茶苦茶すぎるだろ!」
「お前は銀雪に狙われてるかもしれねぇんだ。何時、何が起こるかわからねぇ。自分の身は自分で守れ」


そんなこと言われたってどうしようもないよ…。銀雪って人の事も知らないのに。……ん?


「リボーン、オレその人の事何も教えてもらってないんだけど」
「そうだったか?」
「なあ、さっきから何の話してんだ?」
「10代目の命に関わる大事なことだこの野球バカ!」
「そうなのか? オレにも教えてくれよ、小僧」
「場所を変えるぞ。ツナん家で教えてやる」


そう言われて、オレの家に皆で行く事になった。
向かっている途中、袋を沢山抱えた水沢さんに会った。左手に八百屋や精肉店の袋、右手にケーキ屋の箱を持っていて、それに気づいた獄寺くんは「てめぇ…!」と睨みだし、山本は「ツナ達の知り合いか?」と言ってオレ達を交互に見ていたのでうんと頷く。
オレが声をかける前に水沢さんに声をかけられた。


「沢田じゃん。学校帰り?」
「は、はい! 水沢さんは買い物帰りですか?」
「うん。両手塞がっちゃってさ、昨日の男に会う前に急いで帰ろうと思って」


ははっ、と笑いながら言った昨日の男とは多分、雲雀さんなのだろうとオレは苦笑いで返した。


「10代目、こんなやつほっといて早く行きましょう」
「何だ? もういいのか?」


獄寺くんと山本の温度差が激しすぎる。リボーンは一言も喋らないし。


「ん? 沢田達も急ぎ? 引き留めて悪かったな」
「あ、い、いえ」


じゃあと言って足を踏み出した水沢さんは、俺達の横を通り過ぎて行った。


「ツナ、さっさと行くぞ」


リボーンに急かされ、止めていた足を早めてオレの家に向かった。



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