ワタシと標的

□可愛い標的
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「それくらいにしてやれ」


物陰から現れた黒い帽子と黒のスーツを着たくるりとした揉み上げが特徴の子供。帽子の縁の上にはカエルみたいなカメレオンが乗っている。


何こいつ…。


「邪魔しないでくれるかな」
「そいつのこと病院送りにするつもりだろ? 転校初日から欠席は可哀相だからな」


そう言って此方側に一歩一歩足を進めてくる。
この子供が何者かはわからないが、殴られずに済みそうだ。


「お前、何者だ?」


私の横に来てぴたりと立ち止まり、ニッと笑って顔を見てくる。
同じ質問を返したい衝動を抑え、上半身を起こしてその場に立て膝で座った。


「え? それってオレが地球外生命体か、ってこと? 地球人だよ。そんなことよりお前すごいな。よくわからないけど助かったよ」
「暇だったからな」


そんなどうでもいい会話をしながら足に絡み付いている鎖に目をやる。


これ触ったら手切れるかなー。


ま、仕方ないか。と触れようとした時、「リボーン!」と誰かが叫ぶ声が聞こえ、声がした方に顔を向けた。


「来いってなんだよ! 今授業中だぞ!」


パタパタと足音をたてながら大声で正門に近づいてくる今回のターゲット、沢田綱吉。


授業中なんでしょ。大声出していいのか。おつむが弱いだけあるわね。
にしても……、写真では馬鹿っぽかったのにこうやって見ると可愛い。私より背が低そうだし。


相手も私の存在に気づいたのか、何故か慌てた様な表情をしている。


「ひっ、雲雀さん!? 何やってるんですか!」
「見てわからないの? 風紀を乱してるやつを咬み殺す所だよ」
「んなー!?」
「大丈夫だぞ。オレが止めるからな」


私…、此処で何やってるんだろう…。


ぽへーっとボンゴレ達の会話を聞きながら、そんなことばかり考えていた。


早く帰りたい。


もうそれしか頭にない。


暫く様子を伺っていると、「10代目ー!」とニコニコしながら走って来る銀髪の男が視界に入った。
何処かで見たことのある髪型で、銀髪じゃなければあの女好きの医者と間違えそうだ。遠目で見たら、だが。

そしてこの銀髪の男、獄寺隼人も私に気づくと表情を変えた。此方は警戒しているようだ。


「10代目…何ですかこいつは」
「あ…えーっと…、」
「オレが説明してやるぞ」


またこの男児? こいつ何でも知ってるのね…。


此処で口を挟んで面倒な事が起こると厄介になる為、説明を黙って聞いていた。
が、驚く事にこいつは私が此処に来て門を飛び越え様としていた事まで知っていて。変わった事をしなくて本当に良かった。
そろそろ話が終わる頃かと視線を標的から鎖へと移した時、絡み付いていた鎖が外れて持ち主の所に戻っていった。


「…もういいよ。僕は並森の見回りに戻る」
「そうか。ありがとな」
「フン。其処の君、次は咬み殺す」


トンファーをしまい、踵を返してさっさと去って行く。その背中を見つめ、帰ったらあいつの資料をもう一度よく読もうと思った。
顔の向きをボンゴレ達に戻し、少し早いが友達ごっこを開始する。


「ごめん。手間掛けたな。ありがとう」


スッ…と右手を前に出して男児に握手を求めたが手を差し出してくる様子は無く、変わりに「気にすんな」と言葉を返された。生意気。
地についていた腰を上げて立ち上がる。すると、やはり沢田綱吉は私より少しだけ背が低く、小柄で可愛かった。これがボンゴレの10代目だとは……信じ難い。


「えーっと、この子のお兄さん?」
「ち、違います!」
「てめぇ! 10代目に馴れ馴れしくすんじゃねぇ!」
「君、随分と喧嘩腰だね。血圧上がるよ? あ、オレは水沢悠也。明後日から此処に通うんだ。よろしく」


にこりと笑い、再度右手を差し出そうとしたがやめておいた。先程男児に拒否されたのを気にしている訳ではない。…ないはず。


「ええっ!? 転校生!? リボーンお前知ってたのか!!?」
「まぁな。オレの情報綱をなめんじゃねぇ」


男児に情報綱などあるのかと考え、答えはすぐに出た。私の行動を最初から見ていたという事は「オレ明後日からこの学校通うし」の会話を聞いていたからだ。そうに違いない。
…というかさっきから横でキャンキャン吠えている奴がうざい。


「おいてめぇ! 聞いてんのか!」
「うん、聞いてる。だから少し落ち着けよ。うるさいからさ」
「なっ! 10代目…こいつ、殴ってもいいですか…!」
「ちょ…! ダ、ダメだよ獄寺くん! 落ち着いて!」
「じゅ…10代目がそうおっしゃるなら……」


漸く静かになったが、凄く…睨まれている。随分と嫌われているみたいだ。


「あ、そういえばまだ授業中だったな。悪い。えー…っと……、名前、聞いていい?」


名前を聞けば、わたわたと慌てながら沢田綱吉です、と上擦った声で言われた。知ってる。


「じゃあ…沢田、またな。それと…リボーン? くん、ありがとう。今度お礼でもするよ。んじゃ!」


ひらひらと手を振りながら踵を返して来た道を戻る。何とかやり過ごせたと安堵の息を吐いた。








シェナが去った後も、綱吉達はまだその場に留まっていた。



「おいリボーン! 何なんだよあの人! お前知ってるんだろ!?」
「自分もあのふざけた野郎の事お聞きしたいです!」
「さぁな。オレはあいつと雲雀の会話を聞いてただけだ」


何だよそれ! 知ってる様な口ぶりしてた癖に知らないのかよ!


オレはリボーンのその言葉を聞いて、凄くがっかりした。獄寺くんも目を見開いてあんぐりとしていた。

授業中、窓辺の席のオレは窓の外の空を見ながら黒板に文字を書き意味を説明している先生の言葉を聞き流していた。よくわからなくて、またリボーンに命懸けの勉強をさせられると溜め息を吐いた。
その直後、上からリボーンが宙吊りで現れた。ここ2階なんだけどー!?

よく見ると足にロープが巻いてあった。リボーンの事だから屋上にロープを固定して此処まで下りて来たんだと思う。
なんだよと口パクで言うと、『今すぐ正門前に来い』と書かれた紙を見せられて、リボーンは上に消えていった。
あれってどうなってんの? 誰かが引っ張ってんの!?
疑問を抱えたまま先生に体調が悪いので保健室に行って来ますと伝え、オレはリボーンに言われた通り正門に向かって走った。


正門前まで来ると、リボーンと雲雀さんと、初めて見る男の人がいた。その男の人の足には雲雀さんの武器から伸びている鎖が巻き付いていて、雲雀さんが何をしようとしているのかがすぐに分かった。
そして獄寺くんが追いかけてきて、リボーンが状況を説明してくれた。
リボーンが居たからかわからないけど、雲雀さんは男の人の足に巻き付いていた鎖を解いて並森の見回りに戻っていった。咬み殺されなくてよかった…!

リボーンに握手を拒否された男の人は苦笑いをしながら立ち上がった。
雲雀さんの事ばかり気にしていたオレはこの時初めてこの人の顔をよく見た。
獄寺くんに負けないくらい綺麗な銀髪で、凄く整った顔だった。オレより背が高くて大人っぽくて、白いシャツとジーンズがとても似合っていた。
男の人の名前は水沢悠也で、並高に通うんだと聞いた。リボーン教えろよ!

獄寺くんと水沢さん仲が悪いし最悪だよー…。


うああああと項垂れてたらリボーンに「おい、ツナ」と呼ばれてリボーンの顔を見た。


「あの水沢とかいう奴には気をつけろよ」
「何でだよ? 別に悪そうな人じゃなかったじゃん」
「銀雪のシェナが日本に来たっていう情報が入ったんだ」
「銀雪…?」


初めて聞いた名前だった。誰かと聞こうとした時、ぶつぶつ言っていた獄寺くんが急に大きな声で銀雪!? と叫んだ。


「な、なに!? いったいどうしたの!?」
「10代目! 銀雪のシェナはリボーンさん程ではありませんが、凄腕のヒットマンだと聞いています! フリーの暗殺組織の一人で、今まで失敗した事は一度もないとか…」
「ええぇーー!!!! オレまた狙われてんの!?」


もう嫌だよー! 勘弁してくれよー!


「心配ご無用です! 守護者として、10代目の右腕として、必ずやお守りしてみせます!」
「まだそうと決まった訳じゃねぇぞ。別の仕事で来たのかもしれないしな。念の為だ」


そんな情報いらねぇーーー!!!!


リボーンに最悪な事を聞かされたオレは、不安を胸いっぱいにして保健室に向かった。
 
 


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