ワタシと標的
□手加減
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「……君、ふざけてるの?」
「そんなつもりはないよ」
迫って来る雲雀恭弥に対して一歩も動かない私。
ふざけてるのかと聞かれるのは抵抗しない相手と戦うのがつまらないからだと思う。
でも誰が見てるかわからない状況で戦いたくないし。
かと言って逃げるという選択は絶対にない。
「……ムカつく」
殺気を漂わせながら顔面目掛けてトンファーを振るう雲雀恭弥の攻撃を瞬時に避け、何時もなら反撃する所をぐっと抑える。
「ワォ。避けれるんだ」
「避けれるって…当たったら痛いだろ、それ」
「僕は痛くないよ」
「いやそれ、っと、…ちょ、っ、…攻撃してくるのやめろよ!」
休むことなく繰り出されるトンファー。
さらりと避けて見せているが実は結構危なかったりする。
コイツ…強い。
「それ、いつまで続けるの?」
「君を咬み殺すまで」
「……」
雲雀恭弥という男は何を考えているのか、全く以てわからない。
ただ一つ言えることは、私が彼に殴られれば終わるということ。
殴られる?…いやいや、顔に傷が残るとか無理。弾丸が頬を掠って焼ける様な痛みと血が出たことがあるけどそれとこれとは訳が違う。これは確実に痛いし腫れる!
「…そのトンファー危ないし素手にしようよ」
「やだ」
「だよ、ねっ!」
サッと背後に回り込んで首筋に手刀をいれた。前のめりになった相手を見てから踵を返してシャツを払う。
「ふぅ…。これで何と、かっ!!」
突然襲ってきた後頭部の激しい痛み。ガッと音がして自分が殴られたのがわかる。
「いっ…、痛いだろ!誰だよ!」
後頭部を押さえながら振り向くと、後ろにいたのは意識を失ったはずの雲雀恭弥だった。
「僕の背後を取るなんて…君、やるね」
「な…っ!」
手刀をいれて意識があった奴なんて今まで一人もいなかったはずなのに!
「何でって顔してるね。僕はこれくらいじゃやられない」
さすが、イタリアの最大手マフィアグループと言ったところか。
こうなったら不本意だが逃げるしかない。任務に支障が出る。
「悪いけど、今日はもう帰りたいしまたな。次会った時に殴りかかってくんなよ」
再び踵を返して全力で走ろうと一歩退いたら左足に何かが絡み付いてわぁ!?と変な声を出して後方に転んだ。
いっ、たぁ…。また後頭部…何なんだ今日は。仏滅だ。
「僕からは逃げられないよ」
ニヤリと妖しく笑う表情からは殺気しか感じられない。さっきの一撃がそんなに悔しかったのか。
ふと足元に目をやると、トンファーの先端から伸びている鎖が絡まっていた。
逃げられないこともないが、一般人には到底無理な芸当をすることになるので、できない。
「それ、便利だね…」
振り下ろされるトンファーを目で追いながら殴られる覚悟を決めた。
「そこまでだ」
その声に反応して、雲雀恭弥の動きが止まった。