守りたいもの

□もう1人の看板娘
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今日も酒場はお客さんで賑わっている。回数を重ねるごとに慣れていった給仕。最初は料理を落としてしまったりもしたけれど、今は両腕を使って運べるようになった。
正直メリオダスが作った料理は提供したくないのだが、手が空いた時しか厨房にいられないので仕方がない。許してくださいお客様。


「ほいよっ、大ジョッキ5つ!!」
「おほっ!」
「待ってました!!」
「お待たせしました、大ジョッキ3つです」
「きたきた!」
「ありがとねお嬢ちゃん」


次々と通るオーダー。ばたばたと店内を走り回る。こうしていられるのも、カラーコンタクトという瞳の色を変えられる素晴らしいものを買ってくれたメリオダスのおかげ。心配していた手配書も出回ってはいない。


「どうぞ、追加のエールです」
「まだ入れるかい?」
「お客さん人数は?」
「3人で!」
「リーベ、案内頼む」
「はーい」


お客さんを案内してオーダーをとる。落ち着くまで休む暇なんてないんだけど、意外と楽しいんだよねこの仕事。


「マスター、これさっきのお客さんの分ねー」
「ほーい」


今日のお客さんは飲むペースが早い。溜まったお酒のオーダーをせっせと片っ端から消化するも、次は料理だ。


「〈豚の帽子〉亭にようこそー!」


2人(?)での営業は大変だっただろうなぁ。そう思ってはちらちらとメリオダスの顔を見てしまう。たまに目が合って、「オレの顔になんかついてんのか?」って言われるのはいつものこと。


「お嬢ちゃーん! 渡り鳥の香草焼き頼むよー!」
「はーい、かしこまりました!」
「何でもいいからこっちにつまみー!」
「あいさーっ」


“私が作った”出来立ての料理を左手に、エール2つを右手に持ってお客さんの元へと運んだ。


「お待たせしました、渡り鳥の香草焼きとエールです」
「いっただきぃいー!」
「おい、その料理……」
「うまっっ!」
「なにぃいいいい!?」


舌おかしいんじゃないかと疑うお客さんに「美味しくない料理はマスターが作ったやつなんです」と謝罪の言葉を添えて、お酒をすすめる。申し訳なさそうに言えば大半は許してくれるのだ。いいじゃない、商売だもん。


「おまちどぉっ! 〈豚の帽子〉特製ミートパイ!!」
「「「おおっ、うっまそー!!」」」


メリオダスがトレーにのせて運んできたミートパイを前に、うまそうだと喜んでいるお客さん。食べた後の想像が安易にできてしまう。


「不味ーーーーーーっ!!!!」
「やっぱり」


口の中に入れたものをものすごい表情で吐き出した。それをトレーでガードするメリオダス。やっぱりじゃないですよ。


「こらてめっ、なんつーもん出すんだ!」
「なんでもいいからって言ったじゃん」
「ケンカ売ってんのか〜〜〜〜!?」


案の定いつもの展開になり、あーあとその光景を眺めた。


「やれやれ……困ったお客さんだな」
「ンだとやるかガキ!!?」
「おい……! こいつ、剣持ってるぞ」


今にも殴りかかってきそうな羽交い締めにされている男を前に、腰に手を当てて平然とした表情のメリオダス。困った様子など微塵もなかった。


「片付けろ……」


険しい表情をして指をパチッと鳴らした。その行動にビクッと怯んだ男達。
“とんとことことこ”と可愛らしい足音を鳴らして現れたのは、ホークちゃんだ。

「ったくたりーな〜〜〜〜。俺になんの用だよ〜〜〜?」
「ぶ……豚?」
「豚? ナメんな、看板豚だっつの」


ムキムキの強そうなガードマンが出てくると思ったのだろうか、ホークちゃんを見て呆然としていた。


「ホーク、床掃除頼む」
「ちっ…面倒くせー……」


モシャモシャと床に落ちたミートパイを食べて床掃除を始めた。


「ハァ……つーかよ〜〜〜、もーちっとマシな残飯食わせろよな」
「豚の丸焼きならマシに作れそうな気がする。焼くだけだし」
「んまァ〜〜〜〜い!!!! この残飯サイコー!!」


文句を言いながら食べていたホークちゃん。メリオダスの“豚の丸焼き”の一言で態度をがらっと変え、がつがつと食べ進めた。


「な……なんだかどうでもよくなってきたな……」
「でも、酒ならいいモン揃ってるぞ!! オレ、いろんな土地を動いて回ってるから」
「じゃ……じゃあうまい酒を」
「まいどーー!」


怒る気力がなくなった男は、うまいを強調して酒を頼んだ。メリオダスは商売うまいなぁ。


「ねぇ、マスター」
「ん? どーした?」
「やっぱりさ、私が料理担当じゃ駄目なの?」
「リーベは看板娘だろ? 最初に手が空いた時って決めたじゃねーか」
「……はーい」


私が作ったほうが売り上げあがると思うけどなー。

一段落してすることがなくなり、カウンターから店の中を見回す。空いたジョッキとお皿をさげるのも私の仕事だ。


「そういや聞いたか? “さまよう錆の騎士”の噂……!!」
「錆びついた鎧を着こんだ……最近出没するっていうユーレイ騎士だろ?」


耳に入ってきたお客さん達の会話。盗み聞きをして情報を得るのがこの仕事の楽しみでもある。た、たまに聞いちゃいけないのもあるけど……。


「しかもそいつ、うわ言のように何か呟きながらさまよってるって…」
「怖っ!!」
「たしか、七つの……――なんだっけ?」
「ほら、そこの手配版!!」
「え……っと、そうだ!」
「〈七つの大罪〉!!!」


七つの大罪。10年前、王国転覆を謀った7人の大罪人。誰一人として捕まったという情報はなく、全員死んだとの噂もあった。でも、噂は噂。毎年更新されている手配書があるし、聖騎士が必死になって探しているという証拠だ。生きている証明だと、私は思う。
手配書を初めて見たのはこの酒場に来た時。それまでは森で暮らして、町に行っても手配書とか、今世界がどうなってるとか、簡単に得られる情報さえどうでもよくて耳に入らなかった。生きるのに必死だったんだ。


「その“錆の騎士”ってまさか〈七つの大罪〉のユーレイじゃ……」
「それで他の仲間を捜し回ってるのかもよ………」
「なぁ、小僧の店員さんはどう思う?」


話をふられたメリオダスは持っていたエールの蓋をして、ダンッと音をたててビンを置いた。


「小僧じゃねーよ! メリオダス! ――それと店員じゃなくて店主(マスター)……な!!」
「っふふ、小僧の店員さん……っ」
「こらそこ、笑ってないで仕事しなさい」
「はーい、マスター」


あ、あそこのお皿空いてる。……って、私の料理がのってた皿じゃん。
空いた皿を回収してカウンターに戻った時、カランカランと来店を知らせるベルが鳴った。


「らっしゃい!!」


メリオダスが歓迎の言葉を投げたが、入ってきたのは先程お客さん達の会話で聞いた“さまよう錆の騎士”だった。


 

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