守りたいもの
□出会い
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気づけば背中と膝裏に少年の腕が回されていて、また横抱きされていた。男達から距離をとり、私をおろして庇うように少年は前に立った。
私の腕を掴んでいた男2人は手首を、もう1人は頭を押さえ、苦痛に顔を歪めている。
「なんっだよこのガキ!」
「いっってぇーー!!!!」
「ふざけんなよてめぇ!」
全員涙を浮かべながら必死に吠えていた。私はこんな奴らに捕まりかけていたのか……。
「弱った女に男が3人、お前ら恥ずかしくないのか?」
その言葉に、怒りか羞恥か、カッと赤くなった男達は感情任せに少年に襲いかかり、秒で伸された。
「ほら、歩けるか?」
「あっ、……えと、うん」
差し伸べられた手を取ることはできず、まだふらふらな身体を無理に動かそうとすれば、また背中と膝裏に腕を回されて横抱きされた。
「ほんと、素直じゃねーよな」
〈豚の帽子〉亭につくまでの間、赤くなっていると思う顔を少年の肩に埋めて隠した。
着いてすぐ、長居は無用だとその場を離れてくれた。彼なりの優しさだろう。
「とりあえず座りなさい」
店内にある椅子に、適当に腰をおろした。
「オレはメリオダス! お前は?」
「……リーベ」
「リーベか。無事でよかった! 怪我とかないよな?」
頭を撫でて聞いてきた。私は子供じゃないと思うも、なんだか安心できた。
「なんだ、リーベちゃん狙われてるのか?」
「そう……なのかな」
とんとことことこ、可愛らしい足音を鳴らして外にいたホークちゃんが中に入ってきた。
正確には私自身ではなく瞳かも。
「リーベ、ここで給仕の仕事やらねーか? 寝泊りもできるし賄い飯もでるぞ!」
「……さっき、あの男達に顔見られたでしょ。私の手配書が出回ったら迷惑かける」
「それは次の町でなんとかしてやる! 聖騎士が絡んでるんじゃ1人でいるのも危険だろ?」
「本当に、いいの?」
「店主のオレが言ってんだ、いいに決まっている」
私は少年――メリオダスの営んでいるお店でお世話になることにした。
「自分の家だと思ってくれていいからな」
「ありがとう……っ」
自分の家。例え違うとしても、帰る場所がない私にはとても嬉しい言葉だった。
「どっ、どうしたんだ!?」
「そーかそーか、ここで働けるのがそんなに嬉しいか」
「ちげーだろ!」
不思議だ。嬉し涙なんてないと、悲しい時だけ流れるものだと思ってた。出会ったばかりの私達。ちゃんと信用できる日がくればいいな。
「ありがとう、メリオダス、ホークちゃん。……ありがとう」
その後、2人(?)は私が泣き止むまで何も言わずに側にいてくれた。
暫くして、私が動けるくらいには体力が回復した頃。
「さてさてさーて、とりあえずリーベの着替えが先だな」
ローブを脱ぐだけじゃ駄目なのかと聞けば、その服は珍しいから目立つと却下され、店の制服を渡された。
上はノースリーブのお腹がでたピンクのトップス、下はかなり短い紺色のスカート、何故か片足だけのニーハイソックス。かわいいけど、少しスカートが短い。
「似合ってる?」
「ふむふむ」
「こいつの趣味丸出しで悪ぃな」
メリオダスはこういうのが趣味なのか。私にはよくわからない趣味だ。
「ひやっ!?」
ぺろんとスカートを捲られ、太ももを触られた。それだけで終わることはなく、背後から胸を揉まれ反射的に投げ飛ばしてしまった。
「ごめ、……大丈夫?」
私は悪くないと思うのだけれど、なんなんだろうこの罪悪感は。
「あーびっくりした」
「いい投げっぷりだな!」
「さっきのは何の意味があったの」
「サイズチェックだ」
「しなくていいから!」
これからはこの制服で過ごすことになり、私の服は町に着て行くなよと注意される。仕方なく承諾した。
寝泊りする部屋は3階。私が同室は嫌だと訴えたらホークちゃんが助け船を出してくれて、無事わがままが通った。ギャーギャー騒いでいるうちに日は沈み、夜になる。
「よし、飯にするか!」
「プゴー!! 待ってました!!」
出された料理はとても見た目がよく、美味しそうだ。
「ほら、先食べていいぞ」
「いただきます」
出来立ての湯気が立った美味しそうな料理をフォークに刺して口に運んだ。
「……」
「どうだ?」
変な味が口の中いっぱいに広がった。正直言うと美味しくない。ただの見た目だけの料理だ。
にこにこと何かを期待するように笑うメリオダス。美味しいと言うのを待っているのかな。いや、でもこれは……。
「美味しくないです……」
「やっぱりか」
美味しくないの知ってて出したのか、こいつ! 気を使って嘘つかなくてよかったよ!
「ったく、食えるもん作ってやれよな。オレは食える飯が増えるからいいけどよォ」
「リーベは豚の丸焼き好きか?」
「プゴゴオオォォ!!!!」
「ホークちゃんは食べないよ」
「残念だな」
「逆だっつーの!」
果物でももらって食べようかと考えたが、メリオダスは何を食べるのだろうかと思い、お礼も兼ねて私が作ってあげることにした。
「はい、どーぞ」
「酒場には不釣り合いの料理だな」
「文句あるなら全部ホークちゃんにあげるからいいよ」
「いただきます」
白身魚のマリネ、きのこスープ、サラダ、肉と野菜をパイ生地で包んで焼いたもの。どうかな、どうかなとそわそわしながら感想を待つ。
「うまい」
「ほんと!?」
「まずいと思ってたわ。手が空いたら料理番も頼んだ!」
結果、私の仕事が増えました。お世話になる側だからいいけどね。
ホークちゃんも「うまあああぁあぁぁい!!!!」ってすごく喜んで食べたくれたし、満足。
給仕の仕事、ちゃんとできるといいな。