守りたいもの

□出会い
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サワサワと風が吹く度に草花や木が揺れて土の匂いや花のいい匂いが鼻を掠める。ここなら誰も居ないしと纏っているローブのフードだけを取り、花の匂いを辿ると、そこには小さくて可愛い花が咲き乱れていた。


「わあ、……きれい」


歩みを進めて花達を観察していると、一輪だけ元気がない萎れている花があった。「すぐ元気にしてあげるね」と呟いて萎れていた花に触れた。小さな光が花を包んで消える。それは一瞬の出来事で、先程まで萎れていたとは思えない元気な花がそこにあった。


「おぉ! 元気になった!」
「!?」


突然背後から聞こえた少年らしき声。バッと振り向けば背中に竜の柄の剣を背負った金髪の少年がいた。
顔隠してない、とはっとしたけど、少年なら私のことを知らないかもしれない。


「驚かせちまったか? わりーな」
「……、大丈夫。少し驚いただけ」
「ならよかった!」


にしし、と笑う少年は一見普通の子。でも、今私達がいる場合から1番近い町まで15マイル(24q)もあるのだ。わざわざ歩いてこんな所まで来るはずがない。


「なぜここに?」
「移動酒場の店主をしててな、たまたま通りかかったんだ。お前はここでなにしてるんだ?」
「花を見てたの」
「こんなとこでか?」
「こんな所も何も、私の勝手じゃない」
「まあそれもそうだな」


……ん? 移動酒場? えっ?


「一つ聞いていい?」
「おう! いいぞ!」
「子供でも酒場経営できるの?」
「オレは子供じゃないんでね」
「………そう」


よく町にいる「オレは子供じゃねぇ! もう大人なんだ!」って主張してる子達と似たようなものなのかな。


「その移動酒場はどこに?」
「あっち」


と、指を指された方向を見ても何もなかった。家らしき建物もない。“?”を沢山飛ばしていると「よかったら来いよ。看板豚もいるぞ!」と笑顔で言われ、看板豚に釣られて行くことにした。
少年の後ろをついて行って気づいたのは、この先が小さな崖であること。まさかこの下になんて考えていたら身体が浮いた。正確には少年に横抱きをされて身体が浮いたのだ。


「なっ!? ち、ちょっ!」
「危ないからちゃーんと掴まってろよ」


自分で降りられるからとは言わせてもらえず、少年は飛び降りた。


「ったく、メリオダスのやついつまで待たせやがる。こりゃ今日の晩飯は2倍に決定だな」


声が聞こえて下をみれば、大きな豚の頭の上でぶつぶつと文句を言っている人語を喋る豚がいた。かわいいかもなんて思っているうちにストッと平然とした顔で着地した少年に「ほら!」とおろしてもらうと同時に、頭に拳骨をプレゼントした。


「なにすんだよー…」
「ふん! あなたが悪いのよ!」


頭をさすってムッとした顔をする少年。私はお目当ての看板豚とやらを見にきたんだからと喋る豚に目を向けた。


「ったくお前ってやつは…いつまで待たせるんだよ!」
「待たせて悪かったな、ホークママ」
「オレを無視するんじゃねぇ!」
「この上が酒場だぞ」
「オレの話聞けよ!」


なにやら豚さんが酷い扱いをされているけれど梯子を登ればいいらしいので、私はそれを言われるがまま登った。私の後に少年も続いて。


「ほう、ローブの下はスカートか」
「…どこみてんのよこのスケベ」


睨んだけれど効果はなく、見えちまうんだから仕方ないだろと返された。なんなんだこの少年は、と少し苛立ちを感じたのは気のせい…じゃない。
登り終えて待ち構えていたのはかわいいかわいい豚さん。思わず抱きついてしまった。


「かわいい!」
「な、なんだいきなり!?」
「あっ、ご、ごめんね」
「いいけどよ、びっくりしたぜ」


喋る豚に会うなんて初めてではしゃぎすぎたと反省。ああ、でもかわいい。苛立ちなんてふっ飛んじゃったよ。


「オレと話し方が随分違う」
「うるさい」
「まあいいか。ほれ、入った入った!」


扉を開けて手招きする少年を警戒しながら中に入る。念のため豚さんと一緒に。
ちょいちょいとカウンターを指されて椅子に座った。


「<豚の帽子>亭へようこそー!」


歓迎の言葉と共にカウンターに置かれたジョッキ。しゅわしゅわと白い泡がジョッキの蓋をしていて、ほんのりエールの香りがした。


「……いらない」
「今日1日移動時間なんだ。付き合ってくれるだろ?」
「私は看板豚を見にきただけ。用は済んだし帰る」
「帰る場所あるのか?」


私に帰る場所なんてない事をわかっているかの様な口振りだった。すぐに言い返すことが出来なくて、少し顔を伏せる。


「おいおい、帰る場所がねーわけないだろ。何言ってんだ」


豚さんが発したその言葉は、私の胸に深く突き刺さった。


「…ない」
「プゴッ!? すまねぇ…」
「いいの。気にしないでね、豚さん」
「ホークだぜ」


ホークちゃんっていうのね、なんて二人(?)で話に花を咲かせていたらカウンターを叩く音が店内に響いた。


「んで、これからどうすんだ?」
「どうするって、いつも通り過ごす」
「そりゃ無理だな」
「そんなことない」


何を考えてるのかわからなくて、もしかしたら私のことを知っていて殺そうとしてるとか、聖騎士に引き渡そうとしてるのかと、不安だけが私の中にあった。


「んー…、じゃ次の町まで乗っていけよ。それならいいだろ?」
「まあ、…それくらいなら」
「決まりだな。ほら、一緒に飲もうぜ! 毒なんて入ってねーぞ?」
「強引だな!」


あまり飲んだことがないお酒。一杯だけ、と手をつけたのが間違いだった。次から次へとジョッキに注がれるエール。
「もう無理」だと訴えたら「なんだよ、もう終わりか?」なんて挑発してくるもんだからその挑発にのってやった。それはきっと、慣れないお酒のアルコールに酔ったせい。



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