進撃短編

□乙女の悩み
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「ねえ、ぺトラ」

「ん?」


なんとなく声をかけると、ぺトラが笑顔でこっちを向いた。

今日も天使だなあ。


「どうしたの?雛」

「ずっと、そうかなーと思い続けてて言わなかったんだけど、
ぺトラって兵長のことが好きなの?」


カタンッ


ぺトラの手から、馬を洗うブラシが滑り落ちた。


「・・・大丈夫?」


私はブラシを拾って、顔を真っ赤にして突っ立っているぺトラに渡した。

うん、やっぱり可愛い。


「なっ、そん、な、ことあるわけ・・・」

「ないの?
信頼における上司として、仲間として、私は好きだけどな〜」

「あ、そ、そういう・・・」


ほっ、としたような笑顔が戻る。


「なんのことだと思ったの?」

「い、いや?なんでも?」

「ちなもにさっきは、恋愛的な意味で聞いたんだけどね」

「っ!?」


またまた顔が真っ赤に。


可愛いから、ついついからかちゃうんだよねえ・・・

ごめんね、ぺトラ。


「まあ、図星だってことは聞く前から確信してたよ」

「わ、私、そんなにわかりやすい・・・?」

「わかりやすいかな。
班のみんなは当然、ハンジさんとエルヴィン団長なら気づいてるんじゃない?」

「そんなに・・・?」


しょぼーん、と音をたてたかのように落ち込む。


「兵長本人は気づいてないだろうけどね」

「そっか・・・」


少し顔に明るさがさして、馬のブラッシングを再開した。


「雛は?」

「私?」

「兵長のこと、好き?」


思いがけない問いに、ブラシを動かす右手を止めた。


「へっ・・・なんで?」

「なんとなく」


薄く微笑んでるぺトラの心がいまいち読めない。


「私は・・・」


また右手を動かす。


「よくわからないなあ・・・」


「好き」ねえ・・・

今まで恋なんて一度もしたことないもんなあ・・・


「もちろん、さっき言ったような・・・
上司として、仲間としての好きっていうのはあると思うんだ。
結構な態度取ってるけど、尊敬してるし・・・」

「態度は自覚してたんだ・・・」

「そりゃあ、一応ね。
でも、恋愛感情かって聞かれたら、答えられないかな。
そもそもそも感情がよくわからないし・・・」


その瞬間、はっと気がついた。


そっか、ぺトラは、こんなことが聞きたい訳じゃないんだ。


「あっ、ごめん!!
否定してほしかったんだよね!?
ごめんね、気づかなくて・・・」

「ううん、そうじゃないの、大丈夫。
雛らしい返答が聞けて嬉しかった」


無理はしてない笑顔を見せたから、大丈夫なのかな。


「兵長のこと、応援してるね!!
ぺトラは誰よりも可愛くて天使だから大丈夫だよ!!」

「ありがとう」


その時見せた苦笑の意味が、私にはまだわからなかった。







「お前ら、馬の掃除に何時間かけるつもりだ」

「あ、兵長〜、ぺトラが・・・ふぐっ」


口を思いっきりぺトラにふさがれた。


「なっ、なんでもありません兵長!!
掃除早く終わらせますね!!」

「あ、ああ・・・」


怪訝そうな顔で兵長は去っていった。


「もー、どうして止めたの?
お膳立てしてあげるのに〜」

「い、いいの!今は!」

「今でしょ!!」

「自分のタイミングで言うから!!」


そんなこと言ってるから、いつまでたっても言えないんだよ?


いつまでも、言えるとは限らないのに。
なんて物騒だけど。


伝えたくないのかな?
不安なのかな?

ぺトラなら大丈夫だと思うんだけどな〜


「『恋』って、わからんねえ・・・」

「そのうちわかるよ」

「わかるかなあ・・・」





ぺトラの恋がもし成就して、兵長と付き合い始めたら、私はどう思うんだろう。



そんなことを考えながら、掃除する手を速めた。
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