進撃短編

□美しく残酷な世界
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「ミカサ」


不意に名前を呼ばれ、ミカサは無表情のまま振り向いた。

そこには、長い金髪に漆黒の瞳の、一人の少女が立っていた。


「はじめまして!雛・ファインテールです。
ミカサはエレンの友達なんだよね?」

「…家族です」

「そうなんだ〜。
ねぇ、ミカサはどうしてエレンが好きなの?」

「っ!?」


ミカサの頬が赤くなる。


「いや、エレンはいい子だと思うんだけどね、
そこまで好きになるにはそれなりに理由があるんじゃないかと思って、
ちょっと気になっただけなの。
あ、言いたくなかったら言わなくていいよ!
人が人を好きになるのに理由はいらないってこともあるだろうし…」

「え、エレンは家族であって、決してそんな、
恋愛感情とか、別にそういう訳じゃ…」


普段クールなミカサがあたふたする姿を見て、雛が微笑ましげに笑う。

ミカサはその後も言い訳の言葉を並べていたが、
やがて口を閉じ、顔の赤みも落ち着いてきた。

しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。


「昔、両親が人さらいに殺されて、私が捕まった時…エレンが助けてくれたんです。
エレンは私に再び命をくれた…
戦わなければ勝てないということを教えてくれた…
そして、行き場がなくなった私を、家族として迎え入れてくれた…
だから今度は、私がエレンを守る…あの時の恩は忘れない…」


雛は、ミカサの伏せた瞳をじっと見つめて、静かに聞いていた。


「だから、ミカサはエレンが大好きなんだね」

「……家族です」

「うん、そうだね」


また少し赤くなったミカサに、ふふっ、と笑い声を上げる。


「そっかぁ…エレンかっこいいねぇ。知らなかったよ〜」

「…副長は」

「ん?」

「雛副長は、何かないんですか…?」

「何かって?」

「その…チビ、じゃなくてリヴァイ兵長のこと…」


雛はミカサの『チビ』発言に思わず吹いた。


「兵長?兵長のことはもちろん好きだけど、恋かどうかはまだわかんないんだよね〜
さすがに家族ではないけど」

「そうですか…」

「うーん、そうだなぁ…」


少し悩んだ後、苦笑しながらミカサを見た。


「私もさ、昔の話していい?
あまり気分のいい話じゃないと思うけど」

「…聞きたいです」

「じゃあ、話すね」


雛は空を見上げ、目を閉じて語り始めた。


「私ね、小さい時、何故か壁外にいたの」

「壁外に?」

「そう。何故かはよくわからないんだけど。
とりあえず、私は両親とともに、壁内を目指して旅に出てたの。
でも、途中で巨人に見つかって、両親はその場で食べられて…
呆然と座り込むしかなかった私を、一人の調査兵団員が助けてくれたの」

「それが、もしかして…」

「そう、兵長だったの。
向こうが覚えてるかは知らないけどね。
で、助けられた私はその後壁内に行き、ラージュ家に引き取られて、今の私がいるって感じ」

「副長は、だから調査兵団に入ったんですか?」

「それだけじゃないけど…兵士になるきっかけにはなったかな。
世界って不思議だよね」

「不思議…?」


怪訝そうに首を傾げるミカサに、雛は優しく微笑みかけた。


「だって、そうじゃない?
ミカサのご両親が亡くなったことも、私の両親が死んだことも、
全くいい過去とは言えないけど…
それがなかったら、今、私たちは出会わなかったかもしれない。
そう考えると、この世界は残酷だけど…とても美しいと思わない?」


ミカサは目を見開いた。

その瞳は潤んでいた。


「…ミカサ?」

「どう、して」

「え?」


次の瞬間、ミカサが突然抱き着いてきた。

呆気にとられていた雛だが、黙ってミカサの頭を撫でた。


ミカサが離れるまで、雛はずっと肩を貸していた。
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