short

□アイシテル
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「先輩、」

私には大好きで大切な後輩が沢山いる。



その中でも彼は、特別だった。


『ランランが?そりゃ有り得ないよ。』 

“蘭丸君って凄い純粋そう”
後輩にそう言うと、馬鹿にしたように笑われたが私は本当に純粋だと思ってる。…っていうか、そうだった。



だからこそドロドロとしたドス黒い心の私が、真っ白な心を持った彼を汚すわけにはいかないのだ。



「…先輩、アイドルだって自覚ないんスか。」

突然、部屋に声が響いて私は一瞬肩を揺らす。
が、可愛い後輩の声だ。振り返るまでもなく誰かは分かっていて、私は嫌味を言われているのにも関わらず白い煙を吐き出した。
その行為に鏡越しで、彼の表情が険しくなっているのが伺えて私は思わず苦笑する。


「どうでも良いけど、いい加減ノックくらいしようよ蘭丸君」

へらりと笑いながらも振り向けば、より一層険しい表情になった蘭丸君はそんな私を無視して大きく溜息をついた。
そういえば、嶺ちゃんが朝「今日はランランとドラマ撮影なんだー」と自慢気に電話をかけてきたような。
ということは、挨拶に来たのだろうか。…いや、蘭丸君はそんなことをしない、というか私があまり改まった事が好きじゃないから後輩達に挨拶はしなくて良いと話しておいているのだ。ST☆RISHの子達や嶺ちゃんはよく遊びに来るけど…蘭丸君や藍はやらなくていいのならば、とそれっきり挨拶はともかく私に会いにも来なくなった。…いや、別に良いんだけどね。


それにしても考えれば考えるほど謎が深まる。蘭丸君が仕事中私に会うのを嫌っているのは知っていたし、彼はオンとオフの使いわけが上手なタイプだ、プライベートと仕事中とでは私に対する接し方が大きく違う。蘭丸君によると、どうやら“事務所の先輩”である苗字名前のことが嫌いらしい。


「本気っスか、先輩」

どういうことだよ。苛立ったような蘭丸君の言葉に、私は意味が分からないと首を傾げる。
私は何か彼に悪いことをしたのだろうか。…いや、そんなはずがない。最近休みの日は愚か仕事ですら会わないのである。それに、お互いのことを他人に話すのを私達は好きじゃないかった。例えそれが自分の親友であってもだ。
秘密にしているわけではないが、自分から話を持ちかける訳ではない。よく喋る私でもそうなんだから、きっと無口な蘭丸君は私の名前さえ出さないと思う。束縛はせず、干渉もしない。それが私達の最善の付き合い方であった。

「事務所出て俺と別れるって…なに言ってんスか」

「っ」

蘭丸君の言葉に思わず私は目を見開く。
何故知っているのか、誰にも喋っていないはずなのに。暑くはないのに汗が背筋を伝う。私は、固まったまま動けなかった。

「…親父から聞いて、嶺二や藍に確認もした。」

あぁ、社長か。そう私は頭を押さえる。
確かに社長には話した。いや、話さざるを得なかったのだ。私は彼に結構な迷惑をかけて此処まで登り詰めてきている。家のことに関しても、蘭丸君のことに関しても。秘密はナシにしなくてはならなかった。だから今回のことももちろん喋ったのだが…嶺ちゃんとか藍まで知っているだなんて。口が軽いというか何というか…いや、寧ろ何かの作戦だろうか。

それにしても質が悪い。
私はあの時彼に誰にも言うなと言った筈だ。

「…まだ、決まってはないよ。…社長にだって相談し…っ!」

“相談していただけだった”

そう言おうとしたのに、蘭丸君がガンッと壁を思いっきり殴った事によって阻まれる。

「…んで、俺にはなにも言わねぇんだよ…。」

独り言のようにぽつりと呟いた蘭丸君から私は目を反らした。
…だから、言いたくなかったんだ。
だってこんなの、離れように離れなくなる。








蘭丸君は、私と一つしか年が変わらないけど芸歴の関係で私を先輩と呼び敬語使う。それは当たり前のことだが、彼は私よりもっと芸歴の長い龍也さんや林檎さんのことを日向さん、月宮さんと呼ぶのだ。私は“先輩”なのに。それがなんだか壁を作られているように感じて、少し…いや、かなり悲しかった

『名前ちゃんって、ホンットーにランランのこと好きだよねぇ、』

『はぁ?』

妬けちゃうなぁ、僕!
全ッ然妬けちゃうだなんて思ってなさそーな嶺ちゃんの言葉に私と蘭丸君は首を傾げた。

ドラマ撮影の休憩時間、嶺ちゃんはスタッフさんや蘭丸君がいる前でそんなことをいきなり言ってきた

『だーってだってー、いつも一緒にいるじゃんっ?』

『…くだらねぇな。んなこといったらお前だってたいして変わんねえじゃねーか。』

私はそうだそうだと頷く。
嶺ちゃんはこうやって人をからかうのが好きみたいだ。以前私がトキヤ君と喋っていたときもこうやってからかってきた。

『もーっ、ランランってば照れちゃって!』

『あぁ?なんで俺が照れなきゃなんねーんだよ。』

『えーっ?顔真っ赤だよー?』

『…や、全然真っ赤じゃないし。』

このこのーっ、なんてニヤニヤしている嶺ちゃんを睨む蘭丸君を見て私は嶺ちゃんにつっこむ
本当、嶺ちゃんは人をイラつかせる天才だ。

『んもう!ノリ悪いなー。今は違ってもいずれそうなるかもしれないじゃん?』

どうだか。そう笑いあって、半年後。





私は彼から告白されるだなんて、夢にも思っていなかった、…が、私は割と仕事人間だ。彼の隣にいても、意味がない。そう思い自分の想いを伝えていたら、いつの間にか付き合うことになっていたのだ。

でも、
『…俺、好きっスよ、割と、先輩のこと…。』たどたどしい、どもりまくりの彼のぶっきらぼうな言葉が私の胸に響いたのは事実だった。
その場の流れとか、ルックスとかじゃなく、ただそれだけ。
いつも蘭丸君が言う男らしくて、ロックな感じでは全くなかったけれど、思わず笑っちゃったけど、気持ちはすごく伝わった。




“きっと彼となら、幸せになれる。”
そんな私の考えは甘かった。





 
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