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□キミと
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「く、来栖く…っ!」


動揺したように声を漏らす女の子達。
その一方で、私は訳が分からなくて、頭の中がごちゃごちゃで、
ただただ涙が溢れる

「誰が、本気じゃないとか言ったんだよ。」

冷たくて、低い来栖君の声。
1ヶ月振りに聞いた彼の声は、1ヶ月前のあの日と同じだった。

「えっ、あ、いや、それは…。」

「…俺、アンタらみたいにネチネチしてる女大っ嫌いだから。」

そう、動揺している女の子達をよそに来栖君は彼女達が一番聞きたくないであろう言葉を言い放って振り向かずに、私の腕を掴んで、歩き出した。


「え、あ、…っ!」



掴まれた腕と後ろで泣いている女の子達を交互に見ながら私は言葉にならない声でそう言うが、来栖君は振り向いてもくれないし歩みを止めてもくれない。

あまりのことに、涙なんてものはもうとっくに引っ込んでいた。


つい、さっきのことが、頭をぐるぐると回る。
多分、たった3分あるかないか、くらいの出来事。
でもそのひとつひとつが大きな出来事すぎて、私の脳内では未だに整理が追いつかなかった。


私が殴られそうになったとき、来栖君が目の前にいて、私の代わりに殴られて、







…殴られた?

ばっ、と、来栖君の頬を一瞬覗く。
一瞬、一瞬だけだったけど、赤いものが見えたような気がして、もう一度小さく覗いた。

「く、来栖君!血!血!」

「…は?」

来栖君の頬から流れていたのは、気のせいなんかじゃなく完璧“血”で。
私は久しぶりにまともに会ったことなんてすっかり忘れてひとりでめちゃくちゃテンパった。

「ちょ、ほ、保健室!保健室行くよ!!」

そう、来栖君の腕を掴み走った。
後ろからは来栖君の焦った声が聞こえるけど私もかなり焦ってるせいか気にしてなんていられない。


「…手、つめてぇよ、お前。」

不意に、呟くような声が聞こえた。
…前にも一度言われたような言葉。


「心があったかいからだよ」

そうだな、と、来栖君が小さく笑った気がした。

『知ってた?手がつめたい人って、心があったかいんだぜ。』

春夏秋冬関係なく、いっつも冷たい私の手。
なんとなく、それが嫌だったりもしたけど、来栖君の言葉でどうでもよく思えたり、しちゃったりして。

反対に、来栖君の手はいつも暖かかったけど、来栖君曰く、人によるらしくて、あったかいのも冷たいのも関係ないじゃん、と私は笑った




普段のうるささが嘘のように静かな廊下を、早歩きで進んでいく。 
あれから来栖君とは一言も喋っていないが、だからといって気まずいわけではなかった。


そして、保健室。

私は小さく溜息をつく。

「先生いないみたいだね。」

勝手に入ってみたけど、先生はいなくて。
とりあえず来栖君を椅子に座らせて私は消毒液と、ガーゼとテープを用意する。

だな、とだけ返す来栖君をチラリ、と盗み見るが、やっぱりその頬には赤黒い血が垂れていた。

来栖君の前に座って、わたしはティッシュに消毒液を染み込ませる。

「ちょっとしみちゃうと思うけど、我慢してね?」

「は?!」

「え?」

いきなり、大きな声を出して驚愕したように目を開く来栖君に私は首を傾げた

「え、い、いい!自分でやるから!」

だけど、来栖君は頑なに拒否して、私は無理やり来栖君のほっぺたを掴んで傷に消毒液を染み込ませたティッシュを押し当てる。

「…っう、」

「消毒はできたってガーゼとかは自分でつけられないでしょ?」

「出来るから…っていった…っ」

ふいてもふいても出てくる血と、痛がる来栖君をみて、私は無性に罪悪感を感じてしまう。
…すごい深くいってる。


「…ごめん。」


口からでたのはそんな謝罪の言葉。


「…なに言ってんだよ、別にお前のせいじゃないだろ。」

「元はといえば、私があの子達について行っちゃったのが悪いから…」

今、私はすごく後悔している。

どういうことか、なんてわかりきっていたのについて行ったこと、…来栖君を、怪我させてしまったこと。

でも、

「オレは男だから。女の顔に傷残ったら、大変だろ?」

来栖君はそう、はにかんだ。
その優しさがあまりに嬉しくて、また泣きそうになってしまって、私は誤魔化すように話を続ける。

「…ひっかき傷みたいになってるけど、叩かれたんじゃないの?」

パチンと、大きな音が響いたはずだったけど、来栖君の頬に出来ているのはひっかき傷で。

実際に気になっていたことを聞けぱ、来栖君はそんなわけねーだろ、と軽くつっこんで苦笑した

「叩かれたときに、ツメが当たったみたいでさ。」

最近の女ってほんっとツメ長いよなー、そう、呆れたように笑う。
こうやって話せるのが久々すぎて、楽しくて、私は別れを告げたことを少しだけ後悔した。

…あのまま、何もいわずに知らないフリをしていれば。
それはそれで辛いけど、それなりに幸せだったんじゃないかと感じる。
どうせ、手当が終われば私達はまたいつも通り。
…それが無性に哀しかった


 
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