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□キミと
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「ねぇねぇ、苗字さんと来栖君が別れたってホントかなぁ?!」

「うわさだと苗字さんが浮気したらしいよ!」

「うっわぁサイテー!」



あれから1ヶ月。
校内で付き合っている事が有名だった私達が別れたという事実は、すぐに広まった。
でも広まったのはそれだけじゃなくて。

別れた原因は私の浮気。
来栖君はただ遊びのつもりだった。
今私は一十木君と付き合っている。
私は中学の時いろんな男をとっかえひっかえしていた。

…など、根も葉もなさすぎる下らないものもあった。
誰が流したのかは分からないけど、正直鬱陶しい。


…が、私よりもずっと苛立っている人がここにいるおかげで、平静を保てた。

「ほんっとうざいな。言いたいことがあるなら面と向かって言えば良いのに。」

「いや、そんな事されたら私もめんどくさいことになるから…」

ここ一ヶ月、ずーっとこんな調子の友千香に苦笑した。

別れて間もない頃は、結構辛くて。
傷口に塩を大量に塗られるようで、教室にいるのは身が持たなくなりそうだった

でも、友千香が私を庇ってくれたことで、私は今笑っていられる。


『来栖君、別れよっか。』

精一杯の言葉と笑顔で、来栖君に私は“終わり”を告げた。

『は…?』

泣きそうな来栖君の表情と声。期待してしまいそうになった私が今でも憎くて堪らない。

「あんたさ、後悔、してないの?」

「…してないよ。ただ、」

「ん?」

「良い思い出のまま、終わらせたかったけど。」

そんなの無理だって分かってるし。そう笑った。

来栖君と作った、短い期間の中での沢山の思い出はまだ色褪せたりもしないけど、自分の決断に後悔はしていなかった。

笑顔で話す彼らをみて、知らないフリして続けていく方が私には出来ないと思う。…別れるしか、無かった。


それから私は来栖君と一度も喋っていない。
廊下ですれ違うことがあっても、お互い目もあわさなかった。

…一十木くんも、らしい。

「けっきょく高校生なんてそんなもんだよね、」

「…名前、もう彼氏作んないの?」

友千香の言葉に、私は笑った。

「彼氏は来栖君が最初で最後だよ。私の運命の人は来栖君だと思うから。」

友千香はぽかん、と口を開けて、すぐに呆れたように大きな溜め息をついた。

「あんたってほんっと馬鹿ね。」

引きずりまくりじゃない、そう、私の髪をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。


友千香は、少し涙目になっていて、罪悪感を感じる。



「名前は、気を使わなくて良いからね。」

そんな私の心情を察したようにそう笑顔で言ってくれた友千香に私は泣きそうになった。




________



放課後。


私は友千香と寄り道をしながら一緒に帰る約束をしていた。








が。


「ほんっとにごめん!!!」


何気に学級委員の友千香は、今日急遽集まらなければならなくなったらしく、私は1人教室で友千香の帰りを待っている。



教室に1人、いつかもあったシチュエーションと重なって、心地良くはない。


…最初の内は酷かった。
どこに行っても来栖君の名前を聞いて、わけの分からない、信じがたい噂ばかりが飛び交う。


「運命の人とか、馬鹿みたい。」

そう、自嘲的に小さく呟く。

あんなの、ただの強がりだった。
本当は別れたくなんてなかったし、幸せになってほしいだなんて名目でしかない。


…わたしが、幸せになりたかった。


大きく、重たいため息をつく。
ため息をつくと幸せが逃げると言うが、これ以上私から逃げる幸せなどないだろう。


最近どうも、1人でいると感傷的になってしまう。
全部が全部だめになったわけじゃないのに、こんなのずっと心配してくれている友千香や一十木君に悪いじゃないか。


…とは言っても、すぐに立ち直れるほど単純な問題でもないし



「あ、苗字さんいた!」

と、いきなり聞こえてきた声に私は突っ伏していた顔をあげる。


「…は?」

そこにいたのは、私に来栖君と七海さんが一緒に写っている写メを見せてきた女の子で。
不自然にニコニコとしているその姿に私は怪訝な顔をした。


「ずーっとさがしてたんだよー?靴はあるのにどこにもいないしー。最初教室きたときはいなかったみたいだけど、すれ違っちゃったのかなぁ?」

「…で、何のよう?」

ペラペラとイライラする口調で話す彼女に、思わず顔がひきつる。

だめだ私、今まであんま興味なかったけどこの子の喋り方すっごい嫌い

「相変わらず冷たいなぁ、」

「……茶化さないで。」

へらへら笑っている目の前の女にぶちぎれそうになった。
こっちは目さえ合わせたくないのに。


「まあまあ、そう熱くならないでよー。友達でしょ?」

あまりのことに、失笑してしまいそうになる。
友達になんて、なった覚えがない。

「ねぇ、苗字さん。少しお話ししない?」





 
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