short

□sugar*°
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翔君と別れ、私は帰り道を歩いていた。
夕陽が眩しくて、うつむく。

どっちが好きかって、
そんなの、どっちも好きにきまってる。

…でも確実にどちらかは違う“好き”だ。


「う、わぁっ?!」


小さく溜息をつきながら物思いにふけて歩き続けていれば、私は前方から歩いてくる人に衝突した。


普通に謝ろうとして、口をつぐむ。



「…お前かよ。相変わらず色気のねぇやつだな。」

目の前にいたのは、砂月君で、あまりに驚きすぎて失礼なことを言われているのに言い返せもしなかった。

「え、と…久しぶり。」

戸惑いながらも出たのは、そんな言葉。
言ったあとからマズいとおもった。
私からしたら久しぶりだけど、砂月君でありなっちゃんである彼からしたらさっき会ったばかりなのに。


「…おう。」

でも、彼から返ってきたのは予想外の返答で、反論されると思っていた私としては、不思議でたまらなくなってしまう。
ていうか、なんか、

「…元気、ない?」

元気というか、覇気?が、ない気がする。
は?と砂月君は睨んでくるが、怖くないし。…や、それは私が彼に睨まれるということに馴れてるだけかもしれないけど。

「……どうかした?」

「…どうかしたのはお前だろ。那月の前であんな作り笑顔みてぇなことしやがって。」

「那月のこと傷つけたら許さねぇぞ。」そう、砂月君は言い放った。その言葉で私は砂月君の一番はやっぱりなっちゃんなんだと思い知らされる。いや、そんなことなっちゃんに出会った日から分かり切ってるけど、…けど、どうして私は砂月君に“特別扱い”されているなっちゃんに嫉妬しているのだろうか。

「べ、別に私はそんな…」

「…好きじゃなくなったなら、さっさと別れろ。」

「……え?」

「那月だって馬鹿じゃねぇ。すぐには気付かなくてもそのうち気付くぞ。」

チッ、と舌打ちをして、砂月君は私を睨んだ。

「…砂月君は、私がなっちゃんのこと、もう好きじゃないって思うの?」

「あ?んなのお前が一番よく分かってんだろ。」

わかんないから、聞いてるのに。
でもきっと、なっちゃんが一番の砂月君の様子からすると、やっぱり彼は私がもうなっちゃんに恋愛感情がないと思っているのだと思った。


「那月はお前のことが確実に好きだ。お前に感情がないならさっさとスッパリ切れ。」

胸が、ちくちくと痛む。
頭が痛くて、イライラして、おかしくなりそうになった。



「那月那月って、やめてよ。」



「……は?」

気付いたら、私はそんな事を言っていて。
想いが溢れて、止まらなかった


気づきたくなかった、のに。



「私は本当は砂月君が好きで、なっちゃんと付き合ってたら、砂月君はどうするの?」


「……は、?」


『んなのお前が一番よくわかってんだろ。』

わかった、けど、分かりたくなかった。
なっちゃんと付き合った本当の理由も、私の胸がちくちくと痛む理由も。

全部、私を愛してくれている“なっちゃん”への罪悪感だ。



「…ごめん、忘れて。冗談だから。」

なら、罪悪感を感じているのなら、きっと言ってはいけないことだった。

私は、本当のことをバレないようにおどけてみせながらも、勘の良い彼から逃げるように背を向ける

「わ、私用事あるんだった!もう帰らなきゃ。……また、ね。」


あぁ、どもりまくりじゃない、と苦笑した。
私、嘘つくの下手だなぁ。


ゆっくりと、だけど少しずつ速度をあげながら私は足を動かした

「…っおい…!!」

砂月君が、そう呼び止めたのも無視して。



誰かを傷つけてまで、この恋を叶えたいとは思わない。ていうか寧ろ、手遅れになる前に気付けて良かったかも。…砂月君に会えなくなってから気付いたって、苦しくなるだけだし。
でも今ならまだ、踏ん切りがつくような…気がする。


こんな事を考えるのは虫が良すぎるかもしれないけど、なっちゃんは…なっちゃん、だけは、傷つけたくない。
…それが、なっちゃんが“砂月君”だからなのかは分からないけれど。

「…っはぁ…そりゃ、きてくれないよね。」

少し、走ったところで振り向いてみても、砂月君はいなくて大きく溜め息をつきながらしゃがみこんだ
それくらい分かってたけど、…いや、分かってないのかな。振り向くってことは少なくともちょっとの期待はしてたってことだし。


覚悟しなきゃ。叶わなくたって良いって、叶わないって。


…だけどこれから、どうしたらいいんだろう。
別れようって、なっちゃんに告げる?
このまま知らん顔して、なっちゃんと付き合っていく?

「…どーっちも無理かな……。」

私はなんて卑怯な女なんだ。
傷つけたくない、なんて言いながら自分の傷つかない方法を考えてしまっている。

だけど、知らんぷりが出来るほど大人でもない。

「あれ、名前ちゃん?」


そんなとき、頭上から聞こえた声に顔をあげる。

「…なっちゃん。」



どうするの、私。





 
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